コロナ騒動後のクリニック開業について考える(後編)

コロナ騒動後のクリニック開業について考える(後編)

さて、コロナ騒動後、医院開業についてどう考えるべきなのか、続きを考えていきたいと思う。

まず診療所に勤務する

厳密には開業とは違うが、いきなり自らリスクを取って開業するより、まずどこかの開業医に勤務する、というパターンが今後増えてくるだろう。

歯科医院などは、こういう傾向が以前より多くあると思うが、医科にもこの流れが来ることは間違いない。

そしてそのまま開業医の2診目として働くか、分院長として働くのも良いし、のれん分けしてもらうのもいいだろう。

このコロナの時期はどこのクリニックも余分な医師を抱える余力は減っているだろうが、少し上向きになってきたとき、もう一人医師が欲しいという開業医が必ず出てくる。

その時にまずそこに就職し、開業のノウハウ、開業医が考えていることを学んでいくことから始めるというキャリアは、今後増えてくるだろう。

流行っている開業医師とのつながりを今から持っておく、というのは悪くないかもしれない。

そして、就職するときは、きちんとある程度今後の独立も含めての話を詰めておく方がよいだろう。

場合によっては継承の話に繋がるかも知れない。

当初よりオンライン診療を始める

現在コロナ騒動により、急にオンライン診療がクローズアップされている。

以前からこの技術については盛り上がりかけては落ち込む、を繰り返していたが、このたびの騒動により、ある程度の市民権を得ていくことは間違いないだろう。

もちろんコロナが落ち着けば現在追加となったオンライン初診点数などは、なくなり、ハシゴを外される可能性はある(在宅医療がそうであったように)。

しかも、今まさにコロナの渦中でも当院もオンライン診療を広く告知しているが、予約は思ったほど入らない。

しかし、時代の大きな流れとして、オンラインが広がる方向にならないことは絶対ないと私は思うので、まずはある程度利益を度外視し、この診療科目のオンライン診療ならここ、という施設の確固たる地位を築いておく、というのは長い目で見れば先行投資になるだろうと思っている。

基幹病院と連携する前提でその近くでの開業

今回のコロナによって病院も大きく打撃を受けている。

そもそも病院は、医院よりも利益率は元々低く、赤字病院も多いことはよく知られているところだが、現在は手術さえ中止になっており、しばらくは病院経営は厳しい時期が続くだろう。

その際、患者を集められる医師が近くにいて、紹介患者を送ってもらえるというのは、病院としては非常にありがたい話だろう。

例えば耳鼻科の手術ができる医師が、耳鼻科の無い中規模病院の近くで開業し、自ら出向き手術を病院で行い、その後の外来フォローを診療所で行う。

こういった形は、病院にとってはベッドを埋めることができ、手術点数もあげることができるため、損は無い話だろう。

病院にとって、一つの診療科を増やし、医師を増やしたり外来ブースを増やしたりすることはリスクがあるが、それをいわば外注でできるわけなので、経費を増やさず診療を拡大できることになる。

しかも開業医師にとっても、勤務医で手に入れた高度なスキルを活かすことができるため、まさにwin-winだろう。

こういった形は必ず増えるだろう。

開業前にこういった病院と繋がりを持っておくことは、一つの開業戦略になると思う。

医療に伴う別事業も併せて立ち上げる

このブログは基本的には保険診療クリニック開業についての情報を中心としているのであるが、これからの開業は、自費医療や、医療関連ビジネスを当初から念頭に入れた事業計画が必要となるかも知れない。

また、その際、できるだけ初期投資がかからない事業であるべきだし、患者から見てあそこは利益を上げるために手段を選んでいない、などと思われる方法は長い目で見れば失敗であると思う。

今PCR検査を進めている東京の某クリニックがあるが、今は一時的に利益が上がるだろうが、今後批判が出る形はゆくゆくは評判に影響すると思う。

なので、手がける予定の保険診療と親和性の高い領域の事業を、必要な人にのみ提供する、という形が良いと思う。

例えば眼科医院なら、以前よりコンタクトレンズ販売事業を併設しているところも多い。

しかし例えば耳鼻科では補聴器を自前で販売までしているところはまだほとんどない。

こういったことを当初から考えていくことは集患にも繋がるだろう。

すなわち、開業というより起業、という側面を当初から設計していくことが必要になっていくかも知れない。

これは、医院開業といえども一般企業の起業という意識を持つべきだということを意味している。

しかし、医師であるというアイデンディティを活かすことができるため、一般的な起業よりは安全で有利であるとはいえるだろう。

複数医師でクラウドファンディング

さて、上記までは、今までの伝統的な開業の流れに乗った、一般的にイメージしやすい開業の戦略を述べてみた。

次は、私の思う突飛とも言えるかも知れない戦略を考えていきたい。

まず、お金の集め方を考えることは重要だ。

今までは銀行からの融資、自己資金、親族からの借り入れくらいしか資金調達方法がなかった。

これらのうち、ほとんどの場合銀行融資を利用することになるだろうが、今後またこの新型コロナのような有事が起きると、やはり返済の義務のある資金調達は非常に躊躇される所である。

さて、ではそれに変わるものは何か。

一つは、クラウドファンディングという方法を今後使って開業する医師も現れると思う。

以前ツイートで私は、医師が何人かで例えば1000万ずつ出費して、ある程度の規模のハコを作り、残りをクラウドファンディングで公募する、という方法はどうかと呟いたことがある。

そうすると、実はすでにそういう形で開業されている事例があることをDMでいただいた。

一人で数千万から1億のリスクを取るのではなく、リスクを分散し、規模を少し大きくすることで、周辺地域の方に大きくアピールする。

5000万の借金は少し勇気がいるが、1000万くらいなら、失敗しても医師なら何とか返せると思う金額だろう。

そして例えばその足らずの部分をクラウドファンディングで出資を募る。

例えば具体的に考えてみると、

このコロナによって駅前の一等地が空き、広いテナントが手に入りそう

→ さらのその地域の開業医の高齢化が進んでおり、閉院がいくつか出て、いくつかの診療科は少なくなり、地域住民が困る

→ 医師6人、それぞれの専門性を強く打ち出し、その周辺地域に広くSNSその他の方法で告知、クラウドファンディングを立ち上げる。

医師一人1000万出資、残りを一口10000円で出資を募る。

その地域に診療科がなく、質の高い医療を提供するクリニック群が近くに出来るとなれば、出資する人もいるのではないかと思う。

クラウドファンディングサイトを見ると、色々な事業がお金を集めているが、医療は非常に少ない。

医療は今サイトに出ている多くの事業よりも公共性も高く、出資の理解も得られやすいと思う。

ただ問題は、こういったサイトに訪問出来る世代と、クリニック設立に際してアプローチしたい世代は異なる、ということだ。

しかしこういった問題は今後は解消されていくと思し、出資単価はそれなりに高額にできると思う。

また、複数医師での開業は、後にトラブルが起きることがよくあるが、こういった形を中心となってコーディネートする立場の人がいた方がスムーズだと思う。

まとめ

ほかにもアイデアが出れば追加していきたいが、今の時点で私が思う、コロナ以後の開業の考え方を挙げてみた。

刻一刻と状況は変化しており、また1ヶ月くらい後に見直してみたいとは思う。

とにかく大事なことは、以前のように開業さえすれば必ずある程度の繁栄が約束されているようなことはなく、今後その傾向が強くなることは間違い無い。

しかし、それは今までも分かっていたことである。それがコロナで少し早まっただけだと私は思っている。

他の業種に比べるとまだまだ安全だと言えるし、逆に自分のアイデアや裁量によって、やりたい医療を自分の望む勤務時間の範囲内で自由度高く行うことができる。

さらに勤務医時代より収入を上げることも出来る可能性もある、という意味ではもちろん開業もこれからの選択肢であることは変わりないと思う。

今後も開業に関して知っておくべき情報があれば共有できればと思っている。

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ

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