最近何人かの先生方からご質問を頂いたので、いい機会と思い私が思う、「税理士の選び方」をまとめてみたい。
そもそも開業するまで、家が自営業でなければ税理士という職業の人と出会うことはあまりない。
そういう状況の勤務医が、開業する時に税理士と契約することになるのだが、一体何を根拠に選べばいいかわからない。
実際私も、数多くの税理士の中から選べたわけではなく、紹介を受けた数人の中から選ぶことになった。
知り合いの開業医の中には、税理士が頼りにならず契約を解除した、という話もある。
さてこれから、私が思う、税理士を選ぶときのポイントを挙げていきたいと思う。
そして最後に「税理士の探し方」を考えていく。
①医院税務経験があるか
これが私は最も重要だと考えている。
医院の税務は、税理士側から見ると、実はそれほど難解な作業は必要としない。
大体毎年の利益、経費も変わらず黒字である所が多いし、売り上げの種類もほぼ診療費だけである。
収入の展開が多かったり、赤字や黒字が年次によって違ったりするような業種に比べると処理自体は簡単だろう。
それにより、今まで医院税務経験がなくても、自分には可能だと思い契約を取ろうとしてくる税理士がいる。
しかしそういったケースは要注意だと考えている。
というのは、保険診療に関わる業界独自の考え方や節税方法、医療法人の是非など、経験がないと検討しにくい専門的な内容があり、そういったアドバイスを受けられないのは、開業医にとって損となる可能性が高いと思うからだ。
やはり過去に、できれば今現在開業医をクライアントに持つ経験が多数あるか、が最も大事なポイントだと考える。
そしてもう一点、医院をクライアントとして多数持つ税理士と契約するメリット。
それは、他院の業績をリアルタイムに聞くことができることだ。
開業医は毎月の患者数に一喜一憂するものであるが、例えば前月の業績が悪かった時に、それが内的要因か外的要因かを知るのに、税理士からの情報はありがたい。
「今年は花粉が飛んでいないから他院も少ないですよ」と言われると、精神衛生上非常に助かることがある。
もっとも「他院はどこも良かったですけどねー」と言われると落ち込むが、その場合内的要因と考え、内部環境を改善しないといけない。
②大手か個人か
ここは医院経験があればどちらでも、好みで決めて良いと思う。
どちらにも一長一短がある。
大手なら、多数のクライアントの情報を持っている上、もし担当者が気に入らなければ変えてもらうこともできる。
また、新しい税法の情報などは速やかに入ってくる傾向がある。
やはり大手である安心感、というものはどの業種でもあるだろう。
しかしデメリットもある。
まず顧問料は概ね高い。個人が3万/月からのところ、大手は5万/月から、ということが多い。
また、個人よりイレギュラーな頼みごとはしにくい。
あと、私が大事だと思っているのは、月々の領収書などの処理をどこまで医院側やるのか、という所だ。
大手はきちんとノートに貼ったり、エクセル入力を要求されることが多い。
さて個人はどうか。
私は個人事務所と契約している。
顧問料は個人クリニックなら3から4万、法人でも4から5万/月とやや安い。
そして、契約時の話し合いで、領収書や請求書をすべてクリアファイルに挟むだけで渡している。
この経理処理は毎月のことなので、簡素化できるならそれに越したことはないと思う。
ただここは、例えば院長夫人が経理担当として専念できる、というパターンもあり、その場合はあまり問題にならないのかもしれない。
あとは、個人の良さはフットワークの軽さだ。
私の手がけている別の不動産投資の相談や手続き、融資実行についてなども気軽に相談に乗ってくれる。
こういった融通は個人の方がきくだろう。
一方でデメリットもある。
税法の変更などの情報はやや遅い。
また、ダブルチェックが働きにくく、申告漏れなどが起きる可能性は大手よりは少し高いかもしれない。
また、私の顧問税理士はクライアントを多数抱えており非常に忙しく、返事が遅い時がたまにある。
しかし大手ではないというデメリットはそれほど感じておらず、概ね満足している。
大手か個人か、これはどこに重きを置きたいか、で選択すべきだろう。
③世代は一緒か
例えば院長が40代なのに、税理士が70代などという場合、コミュニケーションが取りにくい可能性がある。
その世代に特有の悩みや願望があり、それは時代によって大きく変わってくる。
そういった細かい要望はやはり同世代の税理士の方が理解しやすいだろう。
毎月の訪問の際、話が通じないと非常に苦痛だ。
④医療法人化について
医療法人は一般の法人とは違って特殊である。
そして法人化手続きは相当大変である。
また法人化にはメリットもデメリットもあり、通常は後戻りできない。
その辺りをきちんとした知識を持って、適切なタイミングで法人化を提案できる税理士であることは非常に大事である。
手続きにきちんと対応してくれる税理士である方が良い。
税理士によっては手続きをしたことがなく、法人化を勧めてこない人もいるし、逆に法人契約の方がお金が取れるので、積極的に無理に勧めてくる税理士もいる。
その医院にとってどちらがベストかをきちんと説明できる税理士であるべきだろう。
これの見極めは、医師自身がある程度知識を持っていないとできない。
複数の先輩先生に聞いて知識を得ておくべきだろう。
⑤税務署OBか、資格税理士か
これがどういう意味なのかは、ここで述べていると長くなるのでググっていただきたいが、どちらを選択すべきか。
これは、どちらでもいいと思う。
以前より税務署OBであるメリットは相当少なくなってきているようだし、資格税理士の方がクライアントよりのアドバイスをしてくれることが多い印象だ。
税務署OBだと税務署とコネクションがある、などというが、これも以前ほど露骨に便宜を図ることはできなくなってきているようだし、そもそも医院が税務調査で大きく指摘されることは少ないため、その七光りをそれほど発揮できないと思われる。
⑥そもそも、クライアント側の税理士か
税務には、グレーと言えることが結構ある。
例えばある物を購入したいとして、事業用と言えるのか言えないのか。
解釈でどちらとも言える、というケースはよくある。
こういった場合、税理士と相談することになるだろう。
それに対して、
「それは経費にはなりませんね」とすぐ言いがちな税理士と
「〇〇と説明できれば経費とできるかもしれません」とクライアントがいかに得するかを考えてくれる税理士がある。
これの積み重ねで税額が大きく変わることがある。
クライアントの意図を最大限汲んで、きちんと税務署と戦ってくれる税理士が望ましい。
もっとも、安請け合いしすぎて税務調査に入られ多額の追徴課税を言い渡されるような、いい加減な税理士もいるため要注意である。
税理士の探し方
一般的に勤務医が税理士と出会う方法は、
1 先輩の紹介
2 コンサルタントの紹介
くらいしか正直ルートがないだろう。
それは私が開業した10年前と、今も変わっていないようだ。
(今当サロンから、そういった「医院税務に強い信頼できる税理士」リストを作ったりしてお互い共有できないか、画策している。)
そしてその中で一人に決めるのではなく、数人と会ってみるべきだ。
今後ずっと付き合っていくに際し、相性は合いそうか。
何よりもそういった印象も非常に大事だ。
そして見るべきポイントは上記の6点だろう。
以上、税理士の選び方を挙げてみた。
他にも要素が後で思いつけば補足します。
記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)
耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ。