開業医が集まって話をすると、結局いつも最後は人事についての話題になる。これに関しては開業している限りずっと続く議題であり、解決することがない。
しかし逆にここに労力を割く意識がないと、開業してから相当苦労することになる。
この、人事の中でまず生じるイベントはもちろん「採用」である。
通常開業する前は多くの場合勤務医、被雇用者であり、採用をされることはあっても、採用する経験はないことがほとんどだろう。
私自身、初めて採用面接に携わった時は、要領がつかめず、相当緊張したし、苦労もした。
開院スタッフ募集の時、一緒にコンサルタント、妻と3人で面接したのだが、私の威厳、貫禄がなさすぎて、コンサルタントが院長だと勘違いして、コンサルタントにアピールする人が多発し閉口した記憶がある。
さて、今回は採用にあたり、募集、面接、採用直後、について当院の現状を語っていきたいと思う。
募集について
募集の方法として、紙媒体、ネット媒体、ハローワーク、派遣会社、知り合いなどの紹介、専門学校からの紹介、などが挙げられるだろう。
このうち、派遣会社は大体一般的な時給の2倍程度になるのが相場で、長期勤務スタッフを雇用するには向いていない。繁忙期のみの増員目的で使用するのが合理的だろう。
専門学校からの紹介は、当院ではまだ実施したことがないので言及できない。ただ今後は考慮していきたいと思っている。
知り合いなどの紹介は、ある程度の信頼性はあり、いい方法ではあるが、注意が必要ではある。それは、医院と軋轢が生じた場合に断固たる決断がしにくい、ということだ。
その知り合いの体面がある場合もあり、厳しい決断を下しにくくなる可能性がある。
同じ理由で勤務病院から開業時にリクルートして連れてくる、というのもできれば避けたいと私は思っている。
やはり初めは助かると思うが、多くの場合そのスタッフが中心となるだろう。そうすると、医院運営にとってそのスタッフがいないと成り立たない状況に陥ることも多く、経営方針が合わなくなった時に、やはり厳しい決断を下しにくくなる。
できれば開業時に全員が並列で新しく採用される形が望ましいと思う。
(ただ、看護師の採用は現在非常に困難であり、ここに関しては知り合いをリクルートする必要に迫られることもあるとは思う)
ハローワークは応募してくる人はやる気のある本気の人が多い印象だが、当地ではあまり応募自体が少ない。
そして残る、紙媒体、ネット媒体が今募集の中心になっていることが多いだろう。
やはり時代はネット媒体であるが、当地は今でも紙媒体による募集は多い。
ネットも、媒体によって求職者の質が大きく変わる印象だ。
具体的な違いはここでは触れられないが、使う媒体もよく吟味しないといけない。
また、どの媒体がレスポンスがあるかは、これも地域性が非常に高いと思われ、一概に答えはないようだ。
ある程度試行錯誤し、地域の同世代院長の医院と情報交換するのがよいだろう。
ただいずれの媒体にするとしても、現在は求職者有利の世の中であり、開業時の10年前と比べ驚くほど応募が少ない。
結果応募者のレベルを保つのは非常に難しくなっており、何ヶ月も募集を出し続けないといけないこともしばしばである。
また、以前は面接日を設定し、応募者全員をその日に来てもらうようにしていたが、最近は応募日と面接日が離れているとその間に他の職場に採用が決まってしまうことも時々ある。それ故、連絡あり次第面接を行うようにしているため、募集期間は面接に追われる毎日になっている。
面接について
「社畜が欲しいのか」という意見をいただいたが、全く意味が違う。どちらかというと医院スタッフは合わないとすぐ辞めてしまうため、むしろ非常に気を使って接している。
医院スタッフに必要な最も大事な要素は「和を大事にできるか」だと思っている。
狭いクリニックの敷地の中で数少ない同じメンバーで勤務時間を過ごすわけであり、反感を買うような突出した個性は他のスタッフと軋轢が生じる可能性が高い。
営業で成績を上げないといけない種類の業務があれば、人と違う強い個性を持つ人が結果を出すこともあるだろう。
しかしクリニックの業務にはそういったものはほぼないので、上記のような性質を持つスタッフを採用する方がよいと考えている。
また、面接で大事なことは、こちらの質問に一生懸命答える気があるか、である。あえて答えにくいような抽象的な質問をした時に、それに対しても真摯に答えようとするかは大事である。
さらに、「前職を辞めた理由」を聞くことは重要である。
ここで、前職の上司や責任者、職場の不満を述べる応募者は、その時点で相当減点である。他がすべて及第点でも、この一点で不採用にすることもある。こういった人は採用しても結局医院の不満を述べて辞めていく可能性がある。
もう一つ、「自分が人からどう見られているか」を聞くことも良いと思う。
皆自己PRは用意してくる。
しかし、「人からどのような人だとよく言われますか?」という質問に対する答えを面接の緊張状態でとっさに嘘をつくことは難しい。
例えば、今までの人生で「性格が暗い」としか言われたことがない人が、「よく明るい」と言われます、と答えるのは難しいと思う。
自己PRも大事だが、他人からどのように見られているのか、がその人の評価であると私は考えている。
最後に、私は受付スタッフなど無資格者の採用には、以前の医療機関での勤務の経験はほとんど加味しない
それより大事なことは、医院のレベルを超えたきちんとした接遇ができるか、である。
医療の知識、技術は入職してから時間をかけて覚えてもらえばよいと考えている。
もっとも、上記のようなことを偉そうに述べているが、私自身、面接を何回やっても、そのスキルが上がっている気がしない。
開業数年目の頃は、面接に根拠ない自信を持った時期もあった。
しかし、その後すごくいい人材だと思って採用しても1日で辞めたり、数日で辞めたりする事例が続いたり、今はまた、面接は本当に難しいと感じている。
逆に、面接ではそれほど光っていなかった人でも、採用すると花開いて中心となって活躍しているパターンもある。
面接で1回話をしただけでは、やはりその人の本質を見抜くことは困難だ。その中で、最低限明るく前向きであることだけは確認したいと思っている。
面接直後
なぜ面接直後という項を設けたかというと、求職者有利のこの時代、面接後のこちらの対応がおざなりだと、他と天秤にかけられ、入職を断られたり、勤務後すぐ辞めたりすることは珍しくなくなった。
すなわち、面接後のこちらの対応も、十分気をつけなければいけない。
まず、採用すると決めたなら、面接後早めの連絡が必須だ。
迷って連絡が遅くなると、優秀な人ほど他の職場の採用が決まっていたりする。
いい人材だと思ったら、速やかに連絡すべきだと思う。
また、採用を決め、入職の同意を得た後も、勤務開始初日までに時々業務連絡し、放置してはならない。
こちらからの連絡がなく、気が変わってしまうこともある。
さらに最近は入職してからすぐの退職も以前より増えており、入職直後の院長含めスタッフの関わりも非常に重要だ。
特に今の20代と、40代以降の仕事に対する考え方は全く違うと思ってよい。
40代は団塊ジュニアで仕事に就くことが難しかった世代であり、さらに一般的に年齢と共に採用機会が減ってくるわけで、この世代は仕事に就けることに対する意識は高い。
しかし少子化真っ盛りの20代は、貴重な世代であることを身を以て自らも知っており、仕事に固執していないことも多い。
その仕事が自分のライフスタイルに合うのかが大事であったりする。
とにかく、特に面接後1ヶ月は求職者側からもこちらを見極められている、という意識が必要な時代になったと感じている。
以上、当院の採用に関する現状に触れてみた。
記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)
耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ。