診療圏調査は信じていいの?

診療圏調査は信じていいの?

医師のMMと申します。開業医/準備医師オンラインサロン「ドクターズチャート」の運営をしています。

診療圏とは何か?

先日twitterでも触れたんですが、診療圏という言葉をご存知でしょうか?
これは例えば飲食店とか小売店などでは商圏といったりしますね。

すなわち診療圏とは来院できる患者さんの住んでいる場所の範囲、ということになります。
今日はこの診療圏について、twitterで触れたことに加えて少し深掘りして、twitterで触れていないこともお話ししてみたいと思います。

開業時はこの診療圏調査というものを多くはコンサルタント会社を通してされる先生が多いと思います。診療圏調査では予想患者数何人、という数字の書いてあるリサーチ結果を渡されることになりますね。

最近はネットでそういった検索サイトもあって、自分でも調査結果も見ることができます。
ここで開業すると患者数何人、と結果が出るんですが、正直その人数に振り回される、ということもあるんですよね。

私もそうだったんですけど、ここで開業したい!と思っていても、この人数で大丈夫かな、と心配になることもあると思います。

でもこの診療圏調査結果というのはどれくらい信頼性があるのでしょうか。

今日は診療圏についての考察をして、最後にこの診療圏調査結果をどう受け取るべきなのか、について4つのお話をしていきたいと思います。

診療圏と患者分布の実例

1つ目のお話は先日twitterでお話しした、当院の開業数年の状況はどうか、ということですね。

当院は開業数年後とさらにその数年後と過去に3回、患者さんの住所をgoogleマップにプロットして、どこから患者さんが来られているのかを調べたことがあるんですね。

当院は、どちらかといえば下町の、移動手段は徒歩が自転車の駅前で人口はそこそこ多い、という立地にあるクリニックなんですが、開業数年の時の来院患者さんの住所をみておどろいたんですよ。

それは、8から9割くらいは300m以内くらいからの来院で、それよりは外からはかなり少ない、という感じだったんですよね。

そして少し離れたところにいわゆる複数車線のある大通りがあるんですが、その外側からの来院はほとんどない、という結果だったんです。

そしてさらに3年後、もう一度同じように患者さんの住所をプロットしてみたんですが、確かに診療圏は広がっていて、500mくらいからは来てくれるようにはなっているのですが、それよりむしろ300m圏内がより濃くなっているのが増加要因、という感じでした。

大通りの向こうからの来院は以前よりは増えては来ていましたが、それでも大きな分断要因になっているのは明らかでしたね。

ここまではtwitterでお話ししたことなんですが、開業10年以上経って、今現在はどうなっているのかというは、今回のお話の最後に触れていきたいとおもいます。

診療圏人口と診療科目の関係

2つ目のお話ですが、診療圏人口は診療科目によって大きく異なる、ということなんですね。

これも以前twitterで共有したデータなんですが、一般内科で40人の患者を期待できる診療圏人口は内科で2000人くらい、皮膚科や眼科は15000人くらい、耳鼻科は20000人くらいが必要と言われていますね。

共有しているデータは、日本医事新報社から出ている診療所経営の教科書という本から参考にさせていただいているんですが、この数字を見ると、内科の方が10倍くらい人数が少なくてすみますから有利なのかという気がするんですけど、話はそんなに簡単ではなくて、まずやはり内科医院の方が数が圧倒的に多い、ですから、診療圏人口2万人のエリアに内科医院が1つも無い、というところは存在しませんので、やはり一般内科ほど、狭いエリアでの戦いになると思います。

でも糖尿病内科とか循環器内科などの専門性を強く打ち出すと、診療圏はかなり広がることになりますよね。

診療科目によって来てもらえる患者さんの範囲は大きく異なる、と言うことを意識して、診療圏を想定しないといけないと思います。

患者の移動手段と診療圏の変化

3つ目のポイントは、患者さんの移動手段によって大きく診療圏の距離はかなり変わる、ということですね。
徒歩や自転車の社会なのか、車社会なのか、ということですね。

あとはバスなのか、電車なのか、ということも少し関係ありますが、移動手段というのはかなり大事なポイントだと私は思っています。

駅前がいいと思って駅前に立てても、実はそのエリアは車社会で駐車場がなかった、というような場合は案外駅前でも患者数が伸びないということはあるでしょうし、逆に駅から20分くらいでも、住宅地の真ん中で徒歩での移動がメインのエリアで、相当流行っているクリニックもありますね。

私の知っている耳鼻咽喉科の先生で、どの駅からも徒歩20分以上かかる場所なんですけど、住宅地にあってみなさんが自転車などで来院されてすごく流行っている先生がありまして、具体的な数字でいうと、1人の先生で2億以上の売り上げがある、というところもありますね。

そこはもちろん先生の人気や努力も当然あるわけなんですが、駅前でなくてもいい立地はある、ということはあると思います。

診療圏内の競合医院の影響

4つ目のポイントは、最も大事なのは競合医院の数、強さ、ということですね。
これが一番重要かもしれません。

はじめに触れました、コンサルタントなどから出される診療圏調査の結果が眉唾になりうるポイントはこの競合医院の要素を加味するのが非常に難しい、ということがあると思います。

診療圏調査の結果が1日30人だったと言われていた先生が結局200人くらいきているケースもありますし、逆に100人来ます、と言われていた場所が50人も来ないということも聞いたことがありますね。

これは結局競合医院との力関係でそうなっている要素が相当強いと思います。

ですので、この診療圏調査については、ある程度の参考にはしても良いとは思うんですが、競合医院をどのように評価するのかを自分なりにデータとして加味して考えないといけないと思います。

これを鵜呑みにして手を引いたり、逆に考えずに飛び込んだりするのは絶対してはいけないと思います。

競合医院との関係については過去にも色々な形でこのvoicyでも触れてきていますから、ご興味がある方はぜひ過去の配信を聴いていただければと思います。

ネット戦略と診療圏の変化

さて最後に当院の最近の状況は、ということなんですが、もちろん半径500mが最も多いのは事実なんですが、診療圏はかなり薄く広く広がっている印象になっています。

駅でいうと2、3つ向こうからもきてくれ出していますね。
そしてその理由は間違いなくインターネットですね。

5年前くらいからHPに力を入れているわけなんですが、これによって今までならリーチできなかった地域の方々に認知されることができるようになっていて、実際今当院の来院動機の6、7割がネット経由という月も珍しくないですね。

これは今までの診療圏の考え方のちゃぶ台返しになる話でもあるんですが、まさにネット戦略というのは飛び道具と言えると思いますね。

ネット戦略についても過去に何度か触れていますので、ご興味ある方は聞いてみていただきたいんですが、まだまだお話しできることはあるかと思いますので、機会をみて配信してみたいと思います。

ただ気をつけておかないといけないのは、だからと言って近隣のリアルの口コミを軽視して良いわけではなく、かかりつけとして何度も受診してくださるのは、やはり半径500mの患者さんたちですから、クリニックはとにかく地域密着の業種である、ということは肝に銘じておいても良いと思っています。

もちろん、大都会の駅前の美容皮膚や、手術メイン、特殊な専門性がある場合は、また話は別だとは思います。

診療圏調査の活用法

というわけで今回のお話をまとめますと、診療圏調査は参考にするのはいいが、その人数の結果を鵜呑みにせず、丁寧に自分で周辺の地域の情報をリサーチする必要があるということ、そして診療科目などでも大きくこの広さは異なるのでそれを加味して十分情報を集めること、そしてその際何よりも大事なのは競合医院の強さ、数である、ということですね。

さらに、ネット対策は飛び道具として有効、ということでした。

いかがだったでしょうか。

開業前はもちろんそうですが、今は電子カルテでしょうから、開業後に患者さんの住所をエクセルファイルに落としてgoogleマップに落とし込んで、自分の来院患者エリアを数年おきにみて眺めてみると、色々な面白い情報が得られますから、ぜひやってみられるのが良いと思います。

それほどやり方は難しくないですね。

※この記事はVoicyでの音声配信の内容をもとに、一部再編集してアップしています。

Voicyではその他クリニック開業・経営に関する内容を中心にお送りしていますので、ご興味のある方は下記プロフィール欄よりご視聴ください。

また開業医/準備医師限定オンラインサロン「ドクターズチャート」にご興味のある先生は下記ページにて詳細をご確認ください。

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。現在オンラインサロンは会員数3,800名超。Twitterフォロワー数20,000人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ

開業戦略/医院経営戦略カテゴリの最新記事