前回は、新患数の確保が大事であることを説明した。
その上で今回は、その新患はどういう経路、来院動機でやってくるのかを考えていきたい。
今回は、
□ 当院の来院動機の変遷
□ それぞれの来院動機について
□ 来院動機の信用度
という流れで書いていきたい。
当院の来院動機の変遷
当院は、新患問診票に来院動機を書いてもらう欄を作っている。それを開業以来毎月集計している。それを参考にしていきたいと思う。
まず今年の3月の当院の新患の来院動機である。
3月の新患来院動機
— MM@開業医による医院開業話・医師のキャリア (@medpractitioner) April 8, 2019
知人の紹介170
インターネット216
ビル壁看板見て37
駅看板8
立て看板14
電柱広告1
バス放送2
時刻表広告1
その他、記入なし72
花粉大量飛散につき数はいつもより異常に多いが、インターネットが紹介を上回って1年以上になる。
今年の3月は、当地は花粉の大量飛散年であったため、過去最高の新患数であった。
新患の4割が「知人の紹介」、半数が「インターネット」である。
また、7年前(開業2年目)の同月の来院動機は以下の通り。
ちなみに7年前(開業2年目)3月の来院動機
— MM@開業医による医院開業話・医師のキャリア (@medpractitioner) April 10, 2019
知人の紹介143
インターネット80
ビル看板58
駅看板2
立て看板13
バス放送0
その他、記入なし80
これでわかること。
7年経ってもやりようで新患は増える。
ネットの重要性が非常に増している。
ビルの壁看板は侮れない。 https://t.co/9Ky55XxZ0k
約半数が「知人の紹介」、35%が「インターネット」、15%が「ビル看板」といったところである。(一部割愛している)
それぞれの来院動機について
当院は今まで実験的な意味も込めて様々な広告媒体に出費してきた。
ここで、それぞれの来院動機につき考えていく。
○口コミ
当院は駅前で、目立つビルの中にあり、ビルの壁に大きな看板もあるため、通りがかりの認知度は高い方だと思う。
それでも開業2年目になると、「口コミ」が「通りがかり」を大きく超えてくる。やはり口コミが非常に重要であることは間違いない。
このことは、再診患者の維持とも繋がっている。
ではこれを増やすはどのようにしていくべきかは、述べるべきことが非常に多いので、また次回以降の「再診患者数について」の記事で考えていくことにする。
追加だが、ほとんどの科目で口コミが大事ではあると考えられるが、例外として、受診していることを他人に言いたくない科目では、この要素はそれほど伸びない可能性もあると思う。
たとえば泌尿器科、精神科、美容外科などは、それほど口コミが広がりにくいだろう。
さらに、大都会のオフィス街などは、口コミの広がりをそれほど期待できないと考えらえる。
逆に内科、皮膚科、耳鼻科、眼科、整形外科で、郊外や田舎に位置する場合は、口コミは非常に重要であり、逆に悪評が流れた時のリカバリーは相当労力がいるだろう。
○インターネット
「インターネット」由来がこの数年で急増している。
この理由は以下の通りだと思っている。
○5年前にHPリニューアルし、疾患コンテンツを充実させたこと
○「地域名 診療科」で検索順位1位となっていること
○グーグル広告もかけていること
○そもそものスマホの普及の影響
(余談だが、10年前HPを作成した時、PCページに合わせてガラケーページ(i-modeページ)を作るかどうか検討した記憶がある。もちろん当時検索のほとんどはPCだった。それが今やほぼスマホからの検索になっており、時代の変化のスピードアップに驚く。)
とにかく、インターネットの台頭は言うまでもなく、ここへの注力は必須と考えられる。
費用対効果は他に比べて桁違いに高い。
極論を言うなら、他の広告をすべて止め、ここに費用を全てかけても間違いないと考えている(しかし様々な理由で当院は他の広告も続けており、その理由は下で触れる)。
科目にもよるとおっしゃる方もあるだろうが、今や高齢者の多い整形外科でさえ、ネット由来患者が急増しているようで、どの科目でも無視できなくなっていると思う。
ただ、この「インターネット」という要素も書くべきことが多いので、また記事を改めたい。
○他院の紹介
他院の紹介による来院は、毎月10から20人程度である。
しかしこの紹介患者は来院時の時点でかなり当院への信頼が高い。
医師会その他の会合などに時々参加し、近隣医師と顔見知りになっておくことは非常に有効である。顔を知られていると紹介されやすい。ここには費用は発生しないので(飲み会代くらいか)、積極的に近隣医院と絡んでいくべきだ。
○ビル壁看板
開業当初は特に、この「通りがかりに存在に気づく」ということが非常に重要になってくる。10年経った今も、1割程度はここからの来院があり、立地が認知度の寄与に大きな影響があることは自明である。
一般的には1階が有利だと言われており、それに異論はないが、当院は2階ではあるがビルの壁に比較的大きな看板を貼っているので、十分認知度は上がっている印象である。
たとえ1階にあっても、ビルの壁に看板を貼らせてもらえない、旗竿地で見えにくい、繁華街で周りが派手な色使いのビルばかりであったりすると、中々気づかれないと思う。
また、立派な街路樹が歩道に並んでいるような場所も、車道から全く見えないことがあり、やはり気づかれない。
物件の周りを十分自分の足で歩き、見え方を何度も確認しなければならない。
看板の色やデザインも重要である。奇抜な色だともちろん目立つが、クリニックという特性上あまりよろしくない。
わたしがおすすめなのは、標識や、高速道路標識などの、青や緑の白抜き文字は比較的目につきやすく、派手になりにくいと思う。また、顔のイラストなどが入っていると見られやすい。
よくある、診療科目と診療時間のみの広告は、目に止まらないだろう。
医療広告ガイドラインに沿わないといけないが、その範囲でできるアイデアは考えていくべきだ。
○駅看板
どこの駅でも、もはや医院の広告くらいしか見ないようになってきている。空いていることも多い。
これに関しては基本的に費用対効果を考えると、必要ないと考える。
ホームで電車を待っている時に線路向こうに見える看板が一般的だが、これに関しては以前にもまして広告効果はなくなってきているという。
原因はスマホだ。
ホームで待っている人はほぼ下を向いてスマホを見ている。
ぼんやり景色を見ているような人は本当に減ったと思う。
ただ、唯一意味があると思う場所は、階段を降りる時に正面に見える看板だ。
階段を降りる時はスマホを見ることができず、前方を見るしかないため、必ず看板が目に入る。しかも看板との距離が近い。
当院のデータ、駅看板8人というのは、この看板によるものだ。
しかし、年間通して考えると、60人程度の来院なので、一人単価5000円としても、25000円/月以下の広告契約でないと、効果がないということになる。
もちろん、その来院患者が口コミで患者を紹介してくれる可能性もあるだろうが、その確率が2割だとしても、30000円/月以下でないといけない。
そう考えると、やはり駅看板は必要ないという結論になるかもしれない。
○立て看板
これは、立てる場所、大きさ、デザインなどを工夫すれば、まだまだ効果はあると思っている。
特に田舎のロードサイドの医院などであれば、近くの交差点に大きな看板を置くことで認知度を上げることは可能だと思う。
特に立地が悪く、物件自体が目立たない場合は立て看板はあってもよいだろう。
当院の場合、近くの人が集まる施設があり、そこの近くの駐車場にかなり大きい看板を置いている。できるだけ目立つようにイラストを入れ、情報は極めて少なく、しかし医院の特徴は大きく載せている。
この看板は当院の来院が少なかったエリアに立てたのだが、設置後そこからの来院は明らかに増えた。
しかし立て看板も同じく、人から目につく場所に立てるべきだ。
目線の高さ、障害物がない場所、車で信号待ちする時に目につく、など自分で道を歩いたり車で走ってみて、目立つかどうか判断しないといけないと思う。
○電柱広告
これに関しては、意味がないとのネットの情報などをよく見る。
設置するとしても、最寄りに来た人に案内する目的にしかならない、などの意見もよく聞く。
しかしこれは意外と効果がある気がしている。
当院では、案内目的ではなく、来院が少ないエリアに設置している。
近隣の、来院が少ないエリアの人が集まる場所の近くに立て、イラストやカラーリングで目立つようなデザインにすれば、意外と目に入るようだ。
「あの電柱のイラストは誰が書いたのですか?」などという質問を患者から受けることがある。
そもそも1本2500円/月くらいで、他の媒体に比べて明らかに安いため、費用対効果は十分ある印象だ。
○新聞広告
開業当初から時々新聞広告を出していると、新聞広告社から、枠が空いたら連絡が来るようになり、通常の4分の1程度の金額で、横54cm×縦6cmなど大きめのサイズを出すことがある。
ただ、費用対効果を考えると、新聞広告もコストを回収しきれていない。一度出すと、これ経由で来院する人は数人くらいだ。
しかし、高齢者にとっては、新聞広告に大きく出るというのは信用になるようで、この広告を見た人からの評価は比較的高い印象だ。
新聞広告は、費用対効果というより、医院としての格を上げる目的で出すなら少し意味があるかもしれない。
○市役所モニター広告、バス放送、郵便局封筒、時刻表
これらの広告も1年以上契約してみた。
これらは結論としては、ほぼ全滅といってよい。市役所広告に至っては、1年間これ経由の来院は皆無だった。
ここに経費を割くのなら、ネットに割くべきだと思う。
しかし、当院では今でも効果が乏しいと思われる広告も一部残している。
それはなぜか。
新規医院開業の抑止力目的である。
私自身物件を探している際、検討している物件の目の前に近隣同科他院の大きな看板があるのを目撃した。
結局その物件の契約は見送ったのだが、そのことが要因の一つであったことは否定できない。
実際は、どれほどの抑止力になるかはわからないし、その不安解消の対価としては高いのかもしれないので、参考程度としておいてもらいたい。
来院動機の信用度
新しい患者が来院した際、初めからこちらの診療を受け入れる姿勢が非常にある患者と、かなり懐疑的な様子で入ってくる患者がいる。
これは来院動機と非常にリンクしている。
私が感じる来院動機による信用度は以下の通りだ。
他院の紹介 > 医療関係者の知り合いの紹介 > 薬局の紹介 > 友人、家族の紹介 > インターネット > 通りがかり、看板
HPを作り込むようになってから、このHP経由の患者の信頼度はかなり上がっている印象がある。口コミほどではないが、HPに十分医院の特徴をいれておくことは、患者との信頼関係を構築する意味でも非常に有用であると感じる。
来院前にすでに患者の信頼性を上げておくということが、現代は可能になってきていると思う。このことで、診療を進める際に患者への説明がスムーズになると考えられる。
まとめると、
口コミ、インターネット由来患者を十分集めることが、無駄のない新患数アップへの方策である。
それが受診時の信頼性を高めることにもなり、診療を進めることが容易になる。
立て看板、ビル壁看板はある程度重要ではあるが、それ以外の媒体はほぼ趣味の世界である。
といったところだろうか。
しかし、新患を集めるだけで、来た患者を失望させてしまうと定着せず、結局医院の評価は落ちてしまう。その集めた新患をまた来てもらうようにする、いい口コミを広めてもらう、このことももちろん非常に重要だ。
記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)
耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
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