
クリニック開業に際し、最も重要な要素は「立地」である。
最近は「ネット上の立地」も非常に重要であり、google検索の上位に入ることは必須になってきているが、これについてはまた機会があれば触れたい。
さて、開業を考えたら、一般的にはまずは場所探しから始まる。
その際の注意点を挙げてみたい。
クリニック開業物件探しの考え方〜立地編〜①「診療圏は広くない」
クリニックの診療圏は狭い。
当院はマイナー外科で、内科よりは診療圏が広いとされているが、9割以上が自転車で15分以内の距離からの受診だ。ほぼ1km圏内だ。
都会の駅前なら1kmくらいまで、郊外の、車が必須の地域でも5kmから広くても10kmいかない。相当田舎で10から15kmといったところだろう(もっともこの広さは一概にはいえず、地域の交通状況、クリニックの数などで相当変わる)。
さらに、川や幹線など、分断する構造物があると、その外側からの受診はほぼ見込めないといってよい。
診療圏についてはあまり楽観的に広く考えない方がよい。
当院は最近ネットに力を入れたため、ここ数年はネット由来患者が増えているが、それでも診療圏は少し広くなっているだけである。
また、自院より都会といえる地域からの受診はかなり少ないが、郊外といえる地域からは意外とやや遠い距離からの受診もある。
そのエリアの住民が、移動は車なのか自転車なのか、どのような生活圏で生活しているのか、十分検討しなければいけない。
クリニック開業物件探しの考え方〜立地編〜②「強い競合には近づかない」
飲食店などと違い、クリニックは一度かかりつけを決めると通常中々変更しない。特に高齢者は義理堅いため、医者を変えるということに抵抗がある人が多い。
ということは、すでにしっかりと信頼を得ている医院から患者を奪い取るのはかなり困難だと思うべきだ。
ここを勘違いし、「あそこは相当流行っているから流れてくるだろう」などと強い競合近くに開業し、失敗するケースを時々みる。
では強い競合かどうかはどう判断するか。
○地域住民による評判がよい
○ネット検索で上位に入り、HPをしっかり作り込んでいる
○開業年数が十分長く、医師がまだ比較的若い(やる気のあるバリバリの2代目院長などは強敵だろう)
○患者数が多い
という要素のうち多くを持つクリニックには近づかないのが無難である。
逆に競合医院が多くても、高齢医師ばかりであったり、評判が悪かったりするような弱い競合医院ばかりなら、飛び込む価値は十分ある。
時折地方で、患者数は多いが評判は悪い、という地域唯一のクリニックが存在するが、そういった医院の近くは狙い目であることがある。
クリニック開業物件探しの考え方〜立地編〜③「視認性が高いか?」
駅前であったり幹線沿いであったりと認知度が上がりやすい場所のことだ。
一般的には上層階より1階がよいとされるが、見える位置に大きな看板を置けたり、十分存在を知らせることができるのなら、2階も悪くない。実際当院は2階だが、特にハンディは感じない。しかし車椅子が入るエレベーターがないようでは論外である。
また、スーパーの門前なども、非常にいい場所だ。そのスーパーの駐車場を使えたりすれば最高である。
逆に巨大ショッピングモール内はあまりおすすめしない。そもそも病院を受診するメンタルでショッピングモールには行かないからだ。
また、医療ビルもピンキリだ。当院は医療ビルで、どの科目も盛況なパターンだが、立地や他院の評判などでどのテナントも閑古鳥が鳴いている所もある。
もっとも、視認性が悪くても、最近はHPのSEO対策を十分行ってネット上の立地を押さえることで補えることもあるが、やはり立ち上がるまでは時間がかかるため、当初は苦労することを想定しなければならない。
クリニック開業物件探しの考え方〜立地編〜④「勤務病院との連携を考える」
勤務病院の近くで開業し、患者を連れてくることができ、逆紹介を受けられるのであればかなり楽に立ち上がることができる。
また、例えば内視鏡内科などの専門性のある開業をする場合、一般内科クリニックと連携し、紹介しあうことができる場所もいいだろう。他の医師からの紹介ほど信頼性の高い紹介はない。
クリニック開業物件探しの考え方〜立地編〜⑤「閉院するクリニックの跡地を狙う」
無医村でなければ、もはや大きく余っているような開業場所は存在しない。どこだとしてもある程度競合があることを想定しなければならないが、開業医は全国的に高齢化してきており、閉院の情報も時々入ってくるため、そういった場所の近くの物件を速やかに見つけて押さえるという戦略も有効だ。
クリニック開業物件探しの考え方〜立地編〜⑥「医師自身の通勤時間が長くなることを許容する」
自分の住みたい場所に開業する医師が多すぎる。
そのため閑静な住宅街の駅前にはクリニックが乱立している。
人口が十分あれば問題ないが、近くに同世代の競合医院があると、むこう何十年と戦うことになり、常に意識しないといけなくなるのはわりとストレスだ。
そこで自分の通勤時間を30分延長することを許容すると、かなりエリアは広がる。
そして他の医師が開業したくないようなエリア(人口が多いが柄が悪い、など)を選ぶと非常に立ち上がりが有利なことがある。
(そんな所ではトラブルが心配、などという医師もいるが、医院は他の業種と比べてトラブルは少なく、所詮は日本国内である。私自身その県で最も柄が悪いと言われる所で働いていたことがあるが、そういった地域で信頼を得ると、説明がほとんどいらなくなり、逆に非常にやりやすくなる。)
クリニック開業物件探しの考え方〜立地編〜⑦「タイミングを逃さない」
これが実は最も重要だが、いい物件だと思ったら、躊躇せず捕まえ準備を進めていく勇気が必要だ。
ベストと思われる物件は中々出ないものだ。その中で確信を持てる物件と出合った時のために十分目を肥やしておくべきだ。
他にもあるかも知れないがとりあえず今回はこれくらいで。
とにかく、
物件探しは慎重に、
しかしチャンスと思えば躊躇せず飛び込む勢いも大事
である。

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)
耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ。