クリニック開業で後悔しないために~これから取るべき方法~

クリニック開業で後悔しないために~これから取るべき方法~

以前に、これから開業医を取り巻く環境は厳しいものになる可能性があると述べた。
来たる外来受診数の現象、医療費の増大、その後の人口減少、これから10年前後で大きな変化が訪れると書いた。

では、その激変の時代に開業を考えている医師、開業医としてどのように生きていくべきか、考えていきたいと思う。

クリニック開業で後悔しないために~これから取るべき方法~①クリニック開業だけではない普遍的な原則

まず医師、医療に関わらず、普遍的な原則を確認する。

人類が民主主義と資本主義を選択している以上、「人」と「お金」を集められる人が有利であり、時代を動かしていく、というのは誰しも抗いようのない事実だ。
時代の変化に乗り、時代を動かす側に立つためには、この二つの要素を集めるべきであることは異論のない所だと思う。

そしてこの二つに併せてもう一つ、これからの時代に持つべき必須の要素がある。

ITリテラシーである。この技術を扱える人間がこれからの時代を動かすことは間違いない(もはや今でもそういう時代になっているが、今後はさらに必須だと思っている)

クリニック開業で後悔しないために~これから取るべき方法~②今までの時代で成功者とされてきた人達

さて未来に言及する前に、ここでまず、今までの時代、日本では、社会的に成功といえる人達がどのような選択でその位置に達しているのかを整理してみたい。

(ここでは、社会的成功は、「ある程度の裕福さ」、「時間の自由」「社会的に尊敬される仕事か」などの内いくつかを持っている、と定義してみる)


1、本人の努力によって、「既得権益」側の位置に従事している。

ここには、医師その他資格者、大企業社員、パイロットなどが入る。ここに属する人々は、一般的に王道と思われる、 勉強がよくでき、面接も勝ち抜くというオーソドックスな進路を取ってきたタイプである。この枠に属すると、ある程度の富裕層にはなり得るが、大富豪にはなりにくいと考えられる。

2、元々大地主や、大企業社長一族など、裕福な家系に生まれている。

ここは、1とは逆に、本人の努力とは無関係に生まれながらにいわゆる「勝ち組」といえるタイプである。

3 、人とは違う道を歩み、唯一のポジションを取っている

例えば成功しているベンチャー企業社長、高額報酬を取るプロスポーツ選手、最近ではネットトレーダーなどだろう。かなり成功確率は低いと思われるが、いわゆる「大勝ち」する可能性もある。

4、公務員

失業の心配がない、多くの場合休みが取りやすいという意味でここに入れてみる。もちろん「大勝ち」はないが、安定という意味では最高である。などだろうか。

今までは情報格差、地域格差などにより、先程述べた「人」と「お金」を集めなくても恵まれた位置に立てることがあった。情報を持っている一部の人間、生まれた場所や出自が恵まれた一部の人間が、富や名声を集めるようなことが往々にして起きてきた。

クリニック開業で後悔しないために~これから取るべき方法~③ネット社会が変えたもの

しかし今、その状況が崩れてきている。

例えば、テレビなどのマスメディアが先導してきた情報の一方向性が、ネットメディアによって崩壊してきている。場所や出自の有利さもオンラインでは徐々に意味をなさなくなってきている。
いわゆる「既得権益」は、もはやいずれも失われていくと考えて準備していかないといけない。

まさに「人」と「お金」を集められる人がダイレクトに成功を掴むだろう時代がすぐそこに来ていると私は考えている。

上記のうち、「3、人と違い、唯一のポジションをとる」、のみが今後生き残っていけるキーワードになると思っている。しかしそのポジションに立つことは以前より容易になってきていると感じている。

クリニック開業で後悔しないために~これから取るべき方法~④クリニック開業医のためにどのような選択をするか?

それを踏まえた上で、やっと本題。

来るべき新しい時代に、開業を考えている医師、開業医としてどのような選択をしていくべきか、考えてみる。

(開業前)
1、とにかく早く開業する

現在の形態の開業をいつか必ずしたいと、迷いなく考えているのであれば、1日でも早く開業した方が良い。前回述べた、医療を取り巻く状況が今のままとは思えない。開業場所の制限などが行われる可能性もある。大きな医療情勢の変化が起きる前に借金返済を終わらせておくのが得策だ。
私の感覚では、今から2、3年、長くて5年以内の開業がよいと思う。
また、これは一般的なことだが、開業をする上で、年齢が若い、ということはメリットが多い。借入のしやすさ、失敗した時の返済能力、体力、気力面など、事業を起こす際に年齢は非常に重要だと思う。

2、開業費用を徹底的に安くあげる

借金返済に時間がかかると、自由になるために開業したつもりが、勤務医以上にそれに縛られてしまう。そう考えると徹底的な開業コスト削減も、今後の開業には非常に有用な考え方だと思う。

その一つの方法として、継承開業は今以上に重要性を増すだろう。クリニックはいまだに地域にとって先行者が非常に有利な業態である。それゆえ、昔からそこに医院がある、という認知度の高さは相当アドバンテージになる。もちろんメリット、デメリットはあるため、その検討は非常に大事ではある。

(開業後)
3、診療圏を広げる

以前に述べたように、医院の診療圏は基本的には狭い。語弊を招く覚悟で言うと、その狭い診療圏での患者の取り合いである。前回のブログで触れたように、外来患者数が減少していくのであれば、一医院あたりの患者数は減っていくわけで、対策としては診療圏を広くするしかない。

そのためには広告、マーケティングの知識が必要である。クリニックで広告に力を入れているところはまだまだ少ない。しかし今後認知度を上げるために、他の業種と同じく広告に費用をかけることは必要になるだろう。

4、一つの領域で誰にも負けない専門性を作る

上記3と繋がるが、診療圏を広げる上で、自分のクリニック独自の医療を持つべきである。
どのようなニッチな領域でもいい。日本で一番、もしくは世界で一番といえる領域を作る。
日本で一番というと相当大変だと思うかも知れないが、ものすごく狭い領域でいいと思う。
一つの診療科で日本で一番になるのは相当難しい。

しかし、例えば耳鼻科ならその中の「鼻科」領域の中の、さらに「嗅覚障害」を専門にし、その中の「検査」に特化して日本で一番になる。

いい例でなくて恐縮だが、それくらいなら日本で有数の専門家になることは可能だろう。
今まではそういうニッチな領域の専門家は、業界内では知られていても、一般には日の目を見ずに埋もれていたのだが、最近はネットの力でそういう人が世間に知られる機会を作ることが可能になった。

例えばその領域のことを毎日ブログに書く、youtubeでアップするなどで世間に存在を知らせることができるようになった。そうすれば全国の嗅覚障害で悩んでいる患者、情報を欲しい医療関係者などから引き合いがあるだろう。また、匂いを扱う会社の社員が見たら、何らかの事業提携に発展するかも知れない。

とにかく、ある一つの狭い領域で日本一のマウントをとること、それによって日本中のその領域に興味がある人を集めることができる。そして今までは診察する際の距離の問題があったとしても、今後はオンライン診察ができればクリアされる可能性がある。

究極のニッチな専門性を作る、それが今後の時代を乗り越える最も強い武器になると思う。

(そして狭い領域でマウントを取れれば、そこから認知度を上げ、他の領域に広げていくのがその後の戦略として有効だと思うが(ランチェスター戦略)、それはまた機会があれば触れてみる)

5、全く違う領域のいくつかを組み合わせ、日本一になる。

(ここからは、やや抽象的な話になる。ただ、まだ見ぬ未来を私が独断で予想しているわけなので、その辺りはご理解願いたい。)

例えば「足のクリニック」という医院があるが、これは「足」に特化して、それにまつわる整形外科、形成外科、皮膚科などの各科の医師が診療に当たるという、新しい切り口である。

今まで行われていた通常診療を、違う切り口で患者目線に沿って提供する、これは今後ニーズがあると思っている。また、医師自身が、医療と異なる事業を展開していくことも、今後積極的に取り組むべきだと思う。その際、医療と医療以外を結びつける手法も将来性があるだろう。

例えば、今ふと思いついた例で、突然で恐縮だが、「医師」×「バイトから帰る交通手段」、などもニーズがあると思う。他病院の当直明けに自分の病院に帰る時、車では居眠りが怖いし、満員電車は非常にしんどい。そこで、その送り迎えのみを引き受けるサービスがあっても面白いだろう。その間睡眠を取れるだけでも医師はかなり楽になるだろう。

例えば今までこういうサービスは思いついても事業化することは難しかった。しかしネットによってこれからはそういったアイデアを広める手段は無数に存在していく。
例えばTwitterやinstagramである程度のフォロワーがいる人がこれを告知するだけでも引き合いがあるかも知れない。
前者の足のクリニックの対象は「患者」、後者の送迎サービスの対象は、「医師」であるが、こういう、相手が求めているものが何か、このニーズを追求する必要がある。

他には、「医療論文」×「英語」なども間違いなくニーズがある。日本の医師で、海外の最新の論文をタイムラグなく日本語で読みたいという医師は多いだろう。その言葉の壁を取り払うサービスがあればこれもニーズがあると思う。
いずれにせよ、何らかのアイデアがネットの力を使うとタイムラグなく事業展開でき時代が来ていると思っている。それを医療をからめて広めていくことは、非常に有効だと思っている。

1つの領域で日本一になるのが難しくても、異なる要素を組み合わせれば簡単に日本一になれる分野が探せばあると思う。

6、他の収入源を作る。

私は実は、不動産投資、民泊事業、海外投資信託、レンタル倉庫事業などを手がけている。まだこれらで本業以上の利益は出ていないが、こちらはこちらで徐々に育てていきたいと思っている。

上記5までと異なるところもある観点の話であるが、今後の社会情勢を考えると非常に大事だと思う。

投資について知識を増やすことは必須だ。医師として以外の収入の柱を作る勉強を早いうちにすべきである。これは医師に関わらず、今後先の見えない変化の激しい時代に生きる上で、収入の柱が1つしかないのは非常にリスクが高いと感じでいる。

例えば、情報を集めれば、海外に行けば年率3%保証の安全な大手投資信託会社による投資信託があったりする。また、ネットを使って何らかの副業を始めてみることも有用であろう。
とにかく、診療以外の収入源を早い段階で育てておくことはこれからの時代のリスクヘッジとして肝要だろう。

7、ある程度早い段階にボリュームのある資産を作る

これは上記6にも繋がるのだが、いずれに投資するにしても、元手が少ないと結果が出るのに非常に時間がかかる。同じ年率3%の投資でも、元手100万円と、1億円では雲泥の差である。
早めにまとまった貯蓄を持ち、それを投資に回すことを考えるべきだ。
投資に多くの資金を回すことができようになると、その投資のみで生活することも可能となる。そうすると仕事からも自由になれる。まずはそのための元手を作るために努力すべきだ。

8、海外を視野に入れる

ここは私は非常に疎いので、詳しい先生に解説を任せるが、日本の医療を輸出することはこれからの時代非常に重要になるだろう。日本の医師免許があれば診療できるアジアの新興国などに移住し、そこで日本の医療を提供する。そしてある程度財をなし得たら、その新興国の不動産投資をする。

こういう戦略も面白いと思う。英語が得意な医師などは、一つの大きな選択肢になり得るだろう。

9、来るべき5G、AI時代に乗り遅れない知識と、開拓者精神を持つ

ここが最も抽象的にしか表現できないのであるが、私は実はこれが一番重要だと感じている。

現在は4G時代と呼ばれ、スマホを持つのが当然となり、それをうまく活用している企業が現在世界を牛耳っていることは歴然たる事実だ。しかし医療は、4Gとは親和性はそれほど高くなかったと私は感じている。
結局医療は人に触れることで成り立つものであり、スマホを中心とした2次元の技術のみでは医療に応用することの限界があったのだろう。

しかし5G時代になると、その医療の考え方が根本的に変わってしまう可能性があると思っている。5G時代が来て医療にも応用が進む、と言っても、ほとんどの人は遠隔医療や遠隔手術ができるようになるくらいと思っている程度だろう。

しかし5G、AIによって起きる変革の肝は、時間、場所の概念が変わることだと私は思っている。タイムラグのない、仮想現実が当たり前の時代になると、都会にいながら田舎の患者の手術をすることが容易になるだろう。オンラインと対面の区別がはっきりとしなくなってくるかもしれない。触覚、嗅覚などもデータによって同期するとができれば、医師、患者の距離の問題さえなくなる。

夢物語のようでもあるが、10年前にはここまで全員がスマホを持ってLINEを使う時代が来ることをおそらくほとんどの人が想像できなかったはずだ。

来たる5G時代、この技術に使われる側の医師になるのではなく、この技術を使ってプラットフォームを作る側のパイオニアになれるよう、情報を集めておくべきだし、固定観念を崩していく必要があると思っている。

クリニック開業で後悔しないために~これから取るべき方法~のまとめ

繰り返すと、

開業を考えているのであれば早く動き、勝ち逃げる

医療の枠にとらわれず、「人」と「お金」がどのようにすれば集まるかを考えることに注力する

固定観念を無くし、ITリテラシーを高める

私自身、これらを念頭に、今後の生き方を考えていきたいと思っている。

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ

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