医師のキャリアプランについて考える(前編)

医師のキャリアプランについて考える(前編)

twitterを見ていると、最近医師達が、今後の行く末を非常に思案しているのを見ることが多い。

コロナ後、それが顕著になってきた。

先が読めない今、それは当然と言える。

そして、それぞれのメリットデメリット、やはり勤務医が堅い、いやまだ開業も可能、フリーランスがリスクがない、などという記事などを見て、さらに悩みを深くしている書き込みなどを目撃する。

しかしどの議論も私にとっては、少し違和感があり、なんとなく腑に落ちない物を感じていた。

そういった議論について、抜け落ちているように私が思う大事なポイントについて、今回考えてみたい。

医師が持つ性質とは

まずこれについて論じる前に、そもそも多くの医師が持つと思われる性質を考える。今後の議論を進める上で重要と私は考えているので、確認しておく。

医師免許を取る為に必要な能力とは、言うまでもなく熾烈な受験戦争に勝ち残る、という能力だ。

そしてその受験はこれも言うまでもなく、元々答えが用意されているもの時間内に見つける、という能力を測るテストだ。

その受験の為に、多くは幼少時から決められた時間に決められた課題を能率よく、そして投げ出さず根気よくこなす、そういう能力に長けている人が有利となる。

ここで受験について細かく言及していくつもりはないが、日本における受験が、官僚養成学校としての東大法学部を頂点とする、優秀なブレーンとも言うべき人材を作る為に生まれたと言うことは、異論のないところだろうと思う。

そしてそれは医学部、医師の世界も同じくであり、決められた仕事を粛々と能率よくこなす、そういう人材が求められ、それを測るのに適しているのが今の日本の受験であると言える。

まとめると、性質として、以下のような人が多くいると考えられる。

●与えられたルールを理解するのが得意

●その与えられたルールに対して疑問を感じることが少ない(ここを疑問に感じ出すとキリがなく、受験勉強にはそんな時間の猶予はない)

●ある一定の決められた仕事を早くこなすことができる

●面白くないことでも、結果を出す為には根気よく継続することができる

他にも色々な性質があると思うが、今回論じることに関連する性質として、今回は上記を挙げた。

すなわち、以下のような能力を持っているかどうかは測ることができない。

●独創性

●主体性

●開拓者精神

●答えがない問題に対してどのように解決を導くか

まずは前提として、今後のキャリアを考えていく上で、医師自身が、私たちの多くは上記のような性質を持っている、ということを認識しておくべきだろう。

今医師が置かれている環境

さて次に、現在多くの医師が置かれている環境について考えてみる。

自費医療は別として、ほとんどの医師が携わっている保険診療。

これは、国は値段を決め、ルールを決めている仕組みであり、まさに上記のような特性を持つ人材がその能力を発揮できる環境である。

そこに独創性や主体性はあまり必要とされない。

大勝ちもないが、負けることもほとんどない、そういうルールの元で医師は仕事をしている。

さながら、仏の掌の上で走り回る孫悟空のようなものだ。

この図のように、日本で医師たちは、守られた環境の中で、勤務医、開業医、バイト医、どのようにキャリアを選択しても失業することはなく、それぞれの働き方の差、給料などは少しの差はあるものの、ある一定水準になるように調整されてきている。

そしてそのどれを選択しても、今までは「食べていけない」ということはなかった。

すなわち、その与えられた環境で求められるようにパフォーマンスを出すことで、もちろん食べていけるし、この世界での評価も上がっていく。


では一方で、一般的な、市場原理が働く業界はどうか。

上記のように、非常に幅は広くなり、一部食べていけない人が当然出てくる。

すなわち食べていくことを意識した上で、どう上を目指すのか、ということを求められていると言える。

そしてそこには明確なルールなどはない(もちろんある程度のモラルは必要だろうが)。

うまくいかなければ食べていけない可能性もある状況なら、どうしたら上に上がれるかを必死で考えるのは当然といえる。

市場原理が働く世界で住むことは、常に競争に晒されている、ということである。

では、コロナ後、医師の世界はどうなってきていると考えられるか。

図のように、左にシフトしていき、この医師という仕事だけでは食べていけないというエリアが一部に現れつつあると考えられる。

いま医師たちはこれを感覚的に感じ取っている為、今までにない恐れを抱き始めていると言えるのだ。

私の感じる違和感とは

さて、この開業か勤務医かフリーか議論で私が感じている違和感はなんだったのか。

医師たちがそれらの働き方の是非を話すとき、この限られた幅での議論に過ぎず、そこでメリットデメリットを挙げあっていても、所詮井の中の蛙である、ということを感じたからだ。

この幅以外にも世界は存在し、そこを議題に挙げずして論じることは、厳しい言い方をすれば、まさに沈みゆく船の中でどの部屋に入るのかを悩んでいるのと同じことだと思う。

多くの医師は、医師の世界も今市場原理にさらされつつある、ということをまだ理解できておらず、いやむしろ理解するのが怖い、という状況だと思う。


そして、初めに医師の性質について挙げたのは、この限られた幅以外の領域の存在やその重要性に、私たち自身は気づかずに疑問を抱かないことが多く、そういった我々医師自身の性質を客観的に知る必要があるということを言いたかったのである。

医師として優秀な能力と、現在のような変化の時代に前例のない領域の存在に気づく能力や新たに領域を生み出す能力は全く違う。

我々医師達はまずそれを自覚しなくてはいけないと私は思う。

まとめると、

勤務医か開業かフリーランスか、という議論もミクロ的な意味はあるとは思うが、これから変化していく時代においては、もっと俯瞰的な視野を持って今後のキャリアを考えていくべきだと私は感じているのである。

さて、では具体的にどういった考え方で医師として今後のキャリアを構築していくべきか、後編で考えていきたいと思う。

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ

勤務医か開業医か?医師のキャリアについてカテゴリの最新記事