前編では、医師の持つ特性、及び今後医師が直面するであろう状況について説明した。
前置きが長くなってしまったが、では実際に我々医師は今後どのように考えてキャリアを構築していくべきなのか、考えていきたい。
ここで誤解がないように言っておきたいのだが、保険診療のルール外を考慮に入れるといっても、儲けのためにいわゆるトンデモ医療に手を出す、ということを推奨したいわけではない。
私自身の考えとしては、保険診療をベースとした医療を逸脱することなく、その上でその枠組み以外に視野を広げていく、ということを大事にしていきたいと思っている。
「一般的に考えられる方法」と「今後医師が意識すべきポイント」に分けて話をしていく。
一般的に考えられる方法
まずは「一般的に考えられる方法」。
ここは簡単に触れるのみとする。
まず前編で述べた、沈みゆく船の中と外に分けて考える。
船の中、すなわち保険診療を基本とした、今までの既成概念と言える環境下で最適解を出す努力は、船が沈みゆくとしてもまだまだ必要だし、もちろんここで全員が食べていけなくなる訳ではなく、やりようで十分成り立つと思うので、ここのみで踏ん張るというのは当然一つの手段だと思う。
そしてこれに関してどうしていくかは、弊ブログ、アカウントでも散々述べてきているし、医師にとっても想像しやすい話だと思うので、今回は割愛する。
次に船の外、なのだが、これに関しておそらく一般的に思いつくだろう方法は以下だと思う。
●(トンデモではない)自費医療に領域を広げる
●医療にまつわる周辺事業を始める
●別の副業を始める
●金融商品や不動産に投資する
●時間の限りバイトする(これは船の中か)
私も不動産、投資信託などいくつかの金融商品にも投資している。
人にもよるだろうが、こういった領域で真価を発揮する医師は多い。
実際こういった領域はある程度の学習に根気がいるため、医師にとっては能力を発揮しやすい可能性がある。
そしてこのような具体論といえる話は以前のブログでも触れているので参照されたい。
今後医師が考えていくべきポイント
さて私がここが肝と考えている、「今後医師が考えていくべきポイント」について。
そしてこのブログで私がもっとも言いたかった、これから医師が改めて考えていくべきこと。
それは、
周りの人や、自分の属する組織にいかに価値を提供できるのか、
ということだ。
そしてそれがそのまま自分の収入であったりやりがいであったりに直結する時代が来ていると思う。
個人として価値を提供できる人間になること。
これを徹底して意識していかなければいけない。
そういう人間になれれば、これからの時代、勤務医か開業医かなどという枠組みは意味をなさなくなってくるのではと私は考えている。
そのために必要な能力は以下だと考える。
①マーケティング感覚
②自己ブランディング能力
③独自性、新規性
④コミュニケーション能力
⑤利他の精神
それぞれ説明してみる。
①マーケティング感覚
医師が不得意としている分野の一つだろう。
マーケティング用語に、product out、market inという言葉がある。
この二つの要素のうち、医師はproduct outの考え方が染み付いている。医業はただサービス業というだけでなく、患者教育という側面も強い、という考えを医学部時代から教えられる。
それにより、marketの望んでいることを理解しようとする意識が非常に疎い。
先日、「最近ワークマンが熱い」という内容にツイートをした。
私の文章が良くなかったのかもしれないが、思った以上に反響が少なかった。弊アカウントのフォロワーさんたちには医師や医療関係者が多いと思うのだが、こういった内容はおそらく自分とあまり関係ないと感じているのだろうと想像した。
しかしここに、これからの医師にとって有用なアイデアが多数詰まっていると私は感じる。
まずここで、今まで誰も手をつけていなかった「高機能で低価格」というエリアに気づいたことがすごい。
商品を変えず、ニーズを増やすことができている。
これを医師に置き換えてみると、非常にニッチな患者が少ない専門分野を持っている医師がいたとしても、それが世間には知られていないということはよくある。
医療はこういったアパレル業界より、専門性が高く、非医師には難解なことも多いため当然起きることだ。
その専門分野を、必要とする人とマッチングさせるだけで、お互いにとって多大な利益となり得る。
医師も、そういった場所が存在しないのか、常に探す習慣をつけ、戦略的に自分が戦えるマーケットを見つけていくべきだ。
②自己ブランディング能力
今後もっとも大事となってくるだろう。
これがあれば、開業しようが勤務だろうが、その人自身がブランドなわけであるから、働くハコは関係なくなってくる。
そして自己ブランディングは、SNSによって以前よりやりやすくなってきていると思うが、必ずしもSNSを用いなくても医師なら様々な方法でその医師自身のブランドを構築することはできると思う。
まずわかりやすいのは、診療内容で唯一無二のある領域のスペシャリストになる、ということだ。
これになれるのなら非常に強い。
そして、日本一、になれなくても、その疾患の、ある年齢層のみに特化、とか、あるエリアに特化、など、セグメントを分けると、そこで一番になることは少し容易になるだろう。
また。診療以外の方法でもブランディングを出すことは可能であろう。
例えば「病気のことをわかりやすく説明できる」や、「フットワーク軽くどこへでも診療しに行ける」、「イケメンである」、「他の医師に上手に働いてもらうことができる」、でも何でも良い。とにかくその医師自身に何らかの魅力があり、人を集めることができる、ということだ。
そしてそれを広めていくための適切なチャンネルは何なのかを、必死で考えていく必要がある。
③独自性、新規性
これは、今まで存在しなかった何らかの価値を提供できるか、ということだ。
全く新しい物を産み出せたらもちろんいいのだが、それは非常に難しい。
なので、既存の物をベースに、別の使い方をする、別の意味を持たせる、ということでもいいと思う。
上記のワークマンの例なら、今まで作業着として開発されていたものを、一般アパレルに広めるという新規性がある。
そして新規性を出すメリットは、先行者利益を取れる、ということだ。
例えばかの有名なyoutuber ヒカキン氏は、この界隈ではトップと言える人であるが、実際動画の内容は正直面白いと言えるか微妙である。しかしyoutubeが今ほどメジャーでない時から、youtubeの将来性を信じて続けて来たことであの位置に立っている。
誰もまだ手をつけていない領域に踏み出して先を見据える、これは医師がもっとも不得意な分野だと思う。
既にたくさん存在する物の中で勝負し勝つのは非常に難しい。
将来花が開くだろう未開の地を探す、これも普段から意識しておかないと出来ないことだろう。
④コミュニケーション能力
これからは個人の時代だと言われる。
上記の自己ブランディングについても、「人を不快にさせない接し方」を持っていないとだれからもそのブランドを受け入れてもらえない。
例えばエンジニアであったとしても、フリーランスで行う場合は、自らクライアントを探し、対話していかないといけない。
すなわち営業マンとしての能力も必要である、ということだ。
私の知る例えば非常に流行っている高級割烹店の大将は、皆コミュニケーション能力が高い。
大将が固くても女将の接遇が良かったりする。
愛想の悪い頑固オヤジの店、では厳しいのである(それもキャラクターによっては人気が出ることがあり、ここもブランディングといえる場合もあるが、レアケースだろう)。
医師とて同じである。
個人の時代となれば、以前にも増してコミュニケーション能力が求められるである。
ここが長けている人は、それだけで自己ブランディングになる可能性もある。
⑤利他の精神
「情けは人のためならず」という言葉がある。
言うまでもなく、「人に親切にすると、その人のためになるだけでなく、やがては自分によい報いとなって返ってくる」という意味だ。
昔から言われてきたこの概念だが、現在のSNS隆盛のネット社会においては、この返ってくるスピードは格段に早くなってきている。
「GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代 」という本があるが、まさにこういう時代がやってきている。
目先の利益を追ってしまうことで先の大きな利益を逃さないように、常に自分を律していくことが、大きな成功に繋がっていくと思う。
まとめ
長くなってしまったがまとめ。
働き方などは、大局から考えると些細な差であり、
「周りの人、属する組織に対し独自の価値を提供できる人間になること」
が最も大事なのである。
そんな抽象的な結論を期待していたのではなくて、もっと具体的に知りたかった、ということなかれ。
探すべきはまだ誰も手をつけていない領域なのだから、具体的に説明できる時点でそこで勝負するのは遅い、ということだ。
今日からこういった視点を持つ、ということを心がけるだけでも生き方は変わってくると思う。
偉そうに述べてしまったが、私自身こういったことを意識していきたい、ということなのである。
記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)
耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ。