集患・増患について①〜前提として〜

集患・増患について①〜前提として〜

さて、以前のコラムやtwitterで、「医院の繁栄は患者数に依存する」と言っても過言ではないと述べた。

その理由については過去記事を参考にしていただきたいが、その患者数を増やすにはどのように考えていくべきか、述べていきたい。

ネット対策などのマーケティングの必要性、再診数、新患数の意味など、テクニカルな話は順次していくつもりだが、前提として最も大事なことにまず今回は触れたい。

集患・増患のために最も大切なのは患者に対する接し方

非常に当たり前のことだが、それは「患者に対する接し方」だ。

これがおざなりだと、いくら数の上で患者を集めても、結局見限られ、本当に意味での「流行っている医院」になり得ないと思う。

ここで開業数ヶ月目の、当院の新患の来院動機を見てみたい。

知人、家族の紹介:111

看板を見て:52

ホームページ:37

予防接種:31

他院からの紹介:6

記入なし : 44   (少ないもの一部省略)

口コミが圧倒的に多くを占めている。医院経営において、口コミは非常に大事なのである。(現在はネット由来も増えてきているが、それでも口コミによる来院数はほぼ変わらず、開業以来ずっと口コミが最重要要素である)

そして、この口コミは、もちろん治療がうまくいったこともあるだろうが、当院は他院とそれほど大きく違わない治療をしている保険診療医院であるため、やはりスタッフ、院長の患者に対する接し方によるものだと思われる。

もちろん、最低限の自科の医療技術は必要ではある。しかし医師が思うレベルの技術の高い低いは患者にはほぼ伝わらない。もちろん医療技術が高いに越したことはないが、そのことで患者が増えるとは思わないことだ。

そういったことより、「あの先生はよく話を聞いてくれる」「優しい」「怒らない」「私のしてほしいことをしてくれる(医療的に問題ないことなら)」などということの方が、患者の心を掴む。

田舎で、その医院しかなく、患者に選択の余地がない場合、その医院しか提供できない唯一の治療をしている場合は、ぞんざいな対応でも患者は来るだろう。

「あの先生は怖いし話も聞いてくれないけど、仕方ないから受診しています」という患者の訴えは時々聞く。

しかしそのような対応では、近くに競合医院ができればすぐ患者は流れていってしまう。

ある程度競合があるエリアで開業するのなら、無口で頑固な寿司屋の大将のようでは、患者は来なくなると思って良いだろう。

そもそも私の知る、よく流行っている寿司屋含め高級料理店は、どこもだいたい非常に責任者自身の接遇が良い。もちろん味も良いのだが、それだけでは客はリピートしない。

医療よりはっきりしている、味の良し悪しで勝負する飲食店でも、やはり接遇が大事なのである。


医師は多くの場合、学生の時から勉強がよくでき、褒められるのに慣れており、良くも悪くも、意識せずにプライドが高くなっていることがほとんどだ。

そして実際医師になり大病院勤務となると、さらに選民意識が高くなり、患者のことを下に見てしまう人もいる。そしてその中で部長や医長などという肩書きが手に入れば余計天狗になる人もある。

そのメンタルを持って開業してしまうと、患者から反感を買ってしまい、いくらいい医療を提供していても患者は離れていく。

実際、手術が達者な総合病院の部長先生が開業したが、ぞんざいな態度の外来スタイルが変えられず、患者が来ず閉院したケースを聞くことがある。医師としての技術以前の問題であると考えなくてはいけない。

患者対応の一例「薬を指定してくる患者への対応」

一例を上げてみる。

「咳と鼻水が出るので私は風邪だと思うんです。この薬がいつも効くのでください」という訴えの患者が来たとして、あなたはどのように対応するだろうか。

ここで正面から否定し、正論を患者にぶつけることは、開業医としてはすべきではないと思う。「そもそも医師でもないのに診断をつけて来るなんて何事だ!」と怒りの感情さえ出る医師もいると思う。

またそこまでではなく、言葉には出さないが不快感が顔に出てしまう医師もいるだろう。

私も医師なので、こういった気持ちはよくわかる。

しかし、これらはいずれも不正解だと思う。

もちろん、本当に風邪かどうかわからないし、内服も患者が決めるべきことではないので、これに関してはきちんとした診断と、治療を提供しなければならない。

ただ、そういう説明をするときに、なぜ患者がそういう希望になったのかをまず考える。そして、闇雲に否定するのではなく、批判的な感情は相手に出すことなく、こちらの意見を受け入れてもらえるよう話を進めていくべきである。

私なら、イラついた気持ちになったとしても顔には出さず、できるだけ笑顔で「まずは診察しますね」と話し、やはり風邪と思うなら「おっしゃる通り風邪ですね。内服はこちらの方が適切だと思いますよ」と説明する(顔に出さないことができない医師はマスクで顔を隠すと良いかもしれない)。

風邪でなければ、その根拠を説明し「確かに風邪のような症状なので、間違いそうになりますが、風邪ではなくて〇〇なので、内服もこちらの方が効くと思いますよ。」


相手に受け入れてもらうためには、まず相手に受け入れられる感情の状態になってもらわないといけない。

こちらが否定的な感情を見せると、相手も同じ感情になり、かえってこちらの意見を受け入れてもらえなくなる。

そこは正論かどうかではなく、感情の問題である。

まずは相手の感情を気持ちいい状態に保つこと、これが非常に重要である。

正しいことが必ず受け入れられるとは限らないと知っておくべきである。

患者対応の一例「診療終了後の駆け込み患者」

もう一つ、例を挙げる。

診療終了直後に駆け込みで受診に来る患者がいるとする。

この患者に対して否定的な感情で接すると、二度と受診されない。

もちろんこちらとしては、診療終了後の受診なのであるから、緊急性がなければ断っても問題ないはずだ。

しかし断られ方によっては相手は不快な思いを持つことになり、ネガティブな口コミに繋がる可能性もある。

理不尽にも思えるが、これが現実なのである。

実際は診察できる状況でなくても、なぜできないかをしっかりと説明し、次の受診は早めに診るなど、相手を極力不快に思わせないように努めるのがよいだろう。


こういう小さなことの積み重ねが、零細開業医にとっては非常に大事なのである。

そもそも、数ある医院の中で、当院を選んでくれたという感謝の気持ちを持つようにしていかないといけない。開業当初はそういった気持ちがあっても、徐々に軌道に乗ってくるとそういう感謝の気持ちは薄れてくることがあるため気をつけないといけない。


また、医師の態度が、そのままスタッフの態度に繋がる

医師が患者の不満をいつも述べていると、スタッフも同じように患者に対してそういうマインドになる。

診療終了間際の受診などを受付で勝手に断ってしまうような事態に陥っている医院も存在する。

スタッフの接遇は、院長の鏡であることをよく理解しておく必要がある。

集患・増患のためには①〜前提として〜 まとめ

とにかく、うわべだけでなく、何を求めてその患者は来たのか、そして何を提供すれば満足するのか、常にそれを意識することが重要だと思う。

病院勤務であれば、その病院のブランド名を患者が信頼している要素が非常に大きい。

しかし開業するとそういったバックボーンは全くなくなり、医院はその医師自身の人柄、技術のみが患者の信用であることを十分理解しておかなければならない。

小手先の集患テクニックの前に、この前提が非常に大事であると強調したかったため、当たり前ではあるが今回はこの「患者に対する接し方」をテーマとした。

(この「接遇」についてはまだまだ書こうと思えば書けることがあるが、あまりニーズがないような気もしている。もしリクエストがあれば続編を書きます)

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ

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