開業医が知っておくべき「減価償却」について

開業医が知っておくべき「減価償却」について

私は普段、twitterで開業時に知っておくべき知識を述べているのであるが、その中で、減価償却について言及した。

これに質問がいくつかあり、思ったより解説希望の方が多かったのでまとめてみたいと思う。

開業医も、税務を税理士に丸投げするのではなく、基本だけは理解しておくべきだ。

ツイートで出した3点の問題の解説。https://twitter.com/medpractitioner/status/1285902765676351490

先に言い訳であるが、私は税務の専門家ではないので、開業医が知っておくといい程度の、簡単な解説であることはご了解いただきたい。

そして、細かいことは省き、概念だけをお伝えしたいと思う。

損益計算のおさらい

「減価償却」に触れる前に、事業とはどのように損益を計算し、税金の額が決まるのか、ざっくりと説明してみる。

売上 ➖ 経費 = 利益

この利益に、税率を掛けたものが税金である。

すなわち、残るキャッシュは

利益 ✖️ (1 ➖ 税率) = 残るキャッシュ 

である。

ここまでは簡単だと思うが、念の為具体的な数字を入れてみる。

売上5000万円 ➖ 経費3000万 = 利益2000万

税率を30%とすると、

2000万 ✖️ (1−30%) = 1400万

これが残るキャッシュとなる。

税金は当然600万

そして、経費とは、事業に必要な出費のことである。

これには、筆記用具、PC、椅子、家賃、水道代などから、内装工事、往診車など、幅広い金額の物が含まれる。

このうち30万以下のものはそのまま経費として参入できる(今は特例)。

さて問題は、30万以上のものだ。

減価償却とは

ここで減価償却という概念が登場する。

高額なものは、長期間に渡って使うことが多いため、1年で経費に計上するのは現実に即していないのため、複数年に渡って経費にしましょう、という会計上のルールだ。

これを何年で分けて経費にする(償却する)かは、物(固定資産)による。

そしてこれは法令で定められている。(国税庁のサイトリンク


さらに、その複数年に分ける分け方には、大きく分けて2つ方法がある。

定率法と、定額法である。

どちらを選んでも良い。

例えば1000万、耐用年数5年の機械を買ったとする。

定額法はわかりやすく、毎年200万円を経費として計上する。

しかし定率法では、

1年目 400万

2年目 240万

3年目 144万

4年目 108万

5年目 108万

といった金額で経費として計上する。

どちらが得かは、その医院の利益の額、推移によって変わるだろう。

例えば現時点で大きく利益が出ているクリニックなら、定率法ではじめに大きく経費を取っておくべきだ。

しかし、今の時点で利益が少なく、今後利益が増えると予想される場合は、定額法で初めは小さく経費にしておき、あとで経費にできるようにしておいた方がよいだろう。

①減価償却分で生活していた、とは?

さてやっと本題、上のツイートの1つめ、

開業当初、私は減価償却分で生活していたようなものだった

とはどういう意味か。

ここで1例として、ある年の空想の会計を見てみる。

ある開業医が初年度例えば売上が3000万、その年に使った経費が2600万だったとする。

さらに開業時にはクリニックの建築費用や機械購入費用が大きくかかっており、例えば5000万円くらいの開業費がかかっていたとする。

そして、上記の減価償却の考え方から、初年度は500万円の償却が取れたとしてみる(この金額は、5000万円のうち、償却が長くかかる物もあれば短い物もあり、計算した結果500万だったと仮定する)。

損益計算上は

3000万 ➖ 2600万 ➖ 500万 =➖100万

となり、会計上は赤字となる。

当然その年は税金は払う必要がない(ほんとは少しかかるが細かい計算は省く)

次に、実際のキャッシュフローを考えてみる。

3000万のうち、実際に医院に振り込まれている金額が2800万とする(診療報酬の振込は2ヶ月遅れなので、残り200万は振込が翌年。しかし損益計算は発生主義なので計上する)

実際に出ているお金は2600万なので、

2800万 ➖ 2600万 = 200万

すなわち、会計上は赤字なのだが、実際の通帳のキャッシュは200万増えていることになる。

これは実際は出ていない減価償却分が経費として計上されていることから起きるカラクリである。


計算上黒字となっていたとしても同じである。

今度は経費を2000万としてみる。

3000万 ➖ 2000万 ➖ 500万 = 500万

税率が20%とすると、税金は

500万 ✖️ 20% = 100万

500万 ➖ 100万 = 400万

会計上、税引後の利益は400万となる。


次にキャッシュフローを見てみる。

プラス分 : 振込2800万

マイナス分 : 経費2000万 ➕ 税金100万 = 2100万

合計 700万プラスとなる。

会計上の利益以上にキャッシュは残っている。

これは、実際はこの年に出ていない減価償却分の500万を、税引後の利益に加えた金額がキャッシュとして残っているからだ。

すなわち「減価償却分で生活していた」というのは、

その年には実際には出ていない経費を計上できるので、その節税分のキャッシュが残り、それが生活費の足しになった

という意味なのである。

②同じ売上、利益でも経年すると残るキャッシュが減る

これはどういうことか。

上述のように、開業時は大きく経費が計上されているが、それを複数年に渡って償却することになる。

定率法では、ご覧のように1年目より2年目、3年目と計上できる経費が下がっていく。

もし定額法を採用していたとしても、決められた償却期間が終わると当然そこで計上できる経費はなくなってしまう。

すなわち見出しの意味は、

年々計上できる償却による経費が少なくなり、同じ売上だったとしても計上できる経費が減り、残る利益が大きくなり、その分税金がふえるため、キャッシュが減ってしまう

ということなのである。

③4年落ちベンツで節税、の意味

これはどういう意味か。

普通車は耐用年数6年と決まっている。

すなわち新車で車を買って経費にすると、上述のように6年で分けて償却し、経費計上することになる。

しかし4年落ちの中古車を買うとどうなるのか。

耐用年数2年ということになる。

そうすると購入金額を一括で経費に計上できることになる。

(定率法では耐用年数2年なら1年目に100%償却できる、というルールがある。

また、決算まで何ヶ月あるかでも変わってくるが、今回は12ヶ月取れると仮定。詳細は省く)

利益が大きく出た場合、4年落ちの乗用車を買うことで、税金を大きく減らすことができるのである。

(もちろん車を購入しているわけなので、キャッシュは減っている。税金額だけの話である)


そしてベンツであるメリットは何か。

これは中古車でも高く取引される、という理由による。

数年後、売却するとして、高値で売れる車種がベンツである、ということだ。

しかしその際、簿価は0円になっているはずで、実際は500万で売れたとすると、500万の利益が出たことになり、そこには税金がかかってしまう。

すなわち、ここは勘違いしてはいけないのだが、経費を使ってベンツを買うことで儲かる訳ではなく、後に売却するときに利益が出ることを考えると、万一購入金額と同額で売れたとしても、税金の先送りをしているだけになるのである。

もちろん、黒字の時に購入しておき、赤字の年に売却すると、その先送りが得になる可能性はある。

しかし、購入金額と同じで売れることは少ないだろうし、医院経営はそれほど黒字や赤字を行ったり来たりする業種ではないので、こういった節税方法が意味があるかどうかはよく考える必要があると思う。

開業すると色々な節税商品の売り込みがあるが、確約のない税金の先送りなだけの商品が非常に多く、業者の口車に乗らないようにしなければならない。


少し話がそれたが、3つ目の「4年落ちベンツ節税」とは、

償却を一年で取れる、値落ちのしにくい高額商品は、4年落ちベンツである、という意味である。

以上、開業医レベルで知っておくと良い減価償却について述べてみた。

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