競合が多い地域での開業戦略(後)

競合が多い地域での開業戦略(後)

開業に際し、どういった要素が他院より勝り、自院の特徴として推していくべきポイントとして存在するのだろうか。

以下のものを挙げてみた。それぞれに解説を加えていく。

考えていくと結局、当たり前のことか、ということも多いだろう。

しかし、こういうことが実際来院の決め手になることが、往々にしてある、ということを知っておくべきだと思う。

そしてこれらを知っておくのと知らないのとでは、患者が来なくてどのように手を打つべきかという時に、取るべき対策が具体的に浮かぶ、浮かばないの差になるだろう。


基本的な考え方として、

「めまいなら〇〇クリニック」「若い男前の先生がいる〇〇医院」「優しくてよく話を聞いてくれる〇〇内科」など、一言でその医院の特徴を患者が述べられるような何らかの要素を持つことが、開業当初は非常に大事であると考えている。

では列挙してみる(しれっと項目を変えました)。

⑴ 立地

これは、開業場所を決める前の要素ではある。

競合が多くても、やはり立地が良いクリニックは強いと思う。

立地についての考察は、以前のブログで書いているので参照いただきたいが、競合が多くても、他院よりいい立地のテナントや土地が空いていることがあれば、チャンスかもしれない。

医院開業物件探しの考え方〜立地〜

後から開業した医院が、駅前の好立地にでき、そちらの方が流行る、ということは時々聞くことだ。

競合がいても、どこも駅前でない場合、駅前一等地のテナントがタイミングよく空くこともあり得る。そういった情報は常に集めておくのがよいと思う。

⑵ 専門とする疾病、治療

この要素についてはもちろん考えていかないといけない要素だろう。

例えば、耳鼻科であれば、多くの耳鼻科医が得意としない、「めまい」を専門にするという方法があるだろう。

他の医院が、手間がかかるので従事したがらない、コストパフォーマンスが悪いなどで、手をつけられていなくて自分が得意な領域は何か、考えてみることは必要だろう。

そして、その疾患に関しては他の追随を許さないレベルになると、同診療科よりの紹介が来ることもある。

近隣医院が手をつけていない、もしくは手をつけていても力を入れていない領域を探す。

うまくいけば診療圏を広げることもできるだろう。

ただ、疾患によっては、受療率が低いものであれば患者の認知がなかなか上がらず、立ち上がりに時間がかかる可能性もあり、その辺りは予測しておくべきだと思う。

また、治療で差別化、というのも一つだ。

これも周囲の医院が手を出していない領域ならベストである。

耳鼻科なら、今やありふれた治療である「花粉症レーザー治療」をどこもやっていない医院ばかりのエリアなどもあるだろう。

そういった地域でそういう治療で特徴づける、というのも一つの方法である。

ただこれも他院がやり出す可能性もあり、本気で取り組むのであれば、初期から十分な告知をしていき、他院が手を出しにくいレベルで啓蒙していくつもりで挑む必要があるかもしれない。

⑶ 他院の評判

私が案外大きな狙い目だと思っているのは、その地域にその診療科の競合が1、2軒あっても、どちらも評判が良くない、という地域だ。

その地域にはその医院しか無いので、仕方なく地域住民はそこを受診しているが、医師が横柄だったり、患者が思うような対応をしてくれておらず、不満を抱えている、という地域はまだまだある。

当院も、開業する際、近隣に同診療科高齢医師がおり、過去にテレビ出演などもしていたという、よく知られた先生だった。

繁忙期は100人を超える来院があった。しかし現在では当然導入されている検査機器もなく、地域の人々からはやや不満がある医院だった。

そしてその先生に忖度して皆が開業を避けていた場所だった。

私は同門でも無いという強みを生かし、そこのエリアを狙ったのだが、やはり当初より患者はある程度こちらに移ってきた。

競合医院の数だけでなく、その評判を良く調べる、というのは大事である。その際、その地域の医薬品卸業者や、処方箋薬局などに情報が集まることが多い。

昔ながらの伝統的な父性スタイルの診療をしていて、患者はそれほど満足していない高齢医師医院はまだまだ存在するため、そういった医院の近くは狙い目かもしれない。

ただ一点注意が必要だが、優秀でコミュニケーション能力の高い2代目医師がいることがあり、そこまでリサーチする必要がある。

⑷ 対象患者の年齢層

患者にとってかかりつけ医院を変える、というのは、年齢が高ければ高いほど、容易ではない。

すなわち、自分が診療したい対象疾患の罹患者が、高齢者が中心であれば、立ち上がりは遅くなると思って良いだろう。

年配者ほど、義理堅い部分もあるし、ネットその他の情報が入ってこないこともあり、かかりつけ医院を変える、というのは相当に敷居が高いと考えておいてよいと思う。

逆に、小児科や耳鼻科など、若年層や、小児を受診させる子育て世代は、かかりつけ医院を変えることにそれほど躊躇がないことが多い。

眼科、皮膚科など比較的若い世代を対象とする科目もやはりある程度立ち上がりが良いことが予想される。

なので高齢患者が対象であれば、ある程度立ち上がるまでの十分な運転資金を用意しておくべきだし、軌道に乗るのに時間がかかっても焦らないことだ。

逆に、高齢者は一度かかりつけになるとなかなか他院に移ることもない、ということも意味するので、軌道に乗りさえすれば、ある程度の安定が期待できるだろう。

若年者を対象とする場合は、立ち上がりは良いかもしれないが、些細なことで悪評が流れたりすると、ママ友ネットワークですぐ広まったりすることがあり、患者の大移動が行われることもある。

駅前小児科数軒で、患者がぐるぐる大移動を繰り返すようなことは時々見聞きする。

とにかく、自分が診療したい対象疾患の患者の心理状況を理解し、対応していくことが必要である。

⑸ 継続した医院の露出

これは広告戦略と同義かもしれないが、意識して常に自分の医院を思い出してもらう仕掛けを色々な方面から考えておく必要がある。


少しずれる話だが、耳鼻科では、花粉の飛散量によって3月の患者数が顕著に異なる。

それに伴って、花粉の飛散が終わる5月6月もその影響を受けて、3月の来院が多い場合は5、6月も多く、3月が少ない場合は5、6月も少なくなる傾向にある、

(これはオペレーションがうまくいって、待ち時間の不満がそれほど出ないという条件である。3月の花粉の時期に待ち時間や接遇の不満が出ると、そのあとの来院は減ってしまう。)

なぜそうなるかというと、3月に当院に来院した人が、5月に例えば風邪など別の疾患に罹患した時に、内科ではなく耳鼻科である当院を思い出し、来院するという流れがあるからだ。

すなわち、最近足を運んだ、という経験が、「病院にいかないと」→「あそこの耳鼻科行こう」という発想を引き起こすのだ。

テレビのCMの影響を受けて商品を選択してしまうのも同じだ。

例えば消臭剤と言えば、「消臭力」が私は頭に浮かぶのだが、もしドラッグストアに消臭剤を買いに行った時に「消臭力」を見つけたら買ってしまうだろう。

特に他との比較もできないし、その商品に対する知識もないと、瞬間的に頭に浮かぶものを選択する。

医院選択でも同じことが起きるだろう。


もう1つ、実例を。

以前に時々再診患者に、新しい医療機器を入れたタイミングでお知らせハガキを送ったことがあるが、その後はやはり来院は増える。

特に高齢者には刺さる。

他の小売店などからのDMは、少し鬱陶しく感じる人も、医院からのハガキなら珍しさから読んでもらえることが多い。

そして、久しぶりに来ましたと、その医療機器と関係ない疾患で患者が来る。

最近なら、LINE@で時々情報発信をすることなども一つの方法かもしれない。

情報の内容ももちろんだが、自院を思い出してもらう、ということが重要だ。

上記2点は一例であり、どういった形で患者に医院の存在を思い起こしてもらうのかは、その科目、立地、特性などで変わるだろう。

ただ、患者がその疾患、診療科を考えた時に近いタイミングで自院に触れている、というきっかけ作りは重要である。

⑹ ネット対策

クリニックは、まだまだネット対策を十分に行なっていない所がある。

なので、そのエリアに競合医院が多くあっても、「診療科 地域」で上位にどのこの医療機関もない場合、大きなチャンスだ。

実際、東京の大都会で開業し、ネット対策で検索上位を押さえ、ほぼそれのみで認知度をあげている医院はいくつか存在する。

ネットに強い、これを突破口にすることは一つの方法だろう。

しかしこれに依存しすぎると、googleの検索アルゴリズムのアップデートによって検索が大きく下がることがあり、そうなった時の影響が大きいため、注意は必要だ。

⑺ 医師の年齢

私は比較的若い年齢で開業したのであるが、開業前は、正直貫禄もないし、年配医師と比べてハンディがあると感じていた。

もちろん医療技術などはそれなりにはあるつもりだったが、年齢に伴う信頼、という部分では勝ち目がないかも、と開業前は不安になっていた。

しかし開業してみると、案外若い医師を求めている患者が多いことがわかった。

開業医は大概年配者が多いため、若いだけで特徴となることがある。

そして、年配医師の診療に「やや古いんじゃないか?」と少し不安を感じている患者などは意外といるもので、そういった人が当院に来て、例えば耳鼻科なら当然のようにファイバーで鼻内を見せるだけで、非常に納得してくれることがある。

すなわち、新しい医療を求める患者には、「開業したての若い医師」というのは独自性になるのである。

もちろん若いことでナメられることも経験するが、その医院に足を運び診察を受けた時点で、患者は受診したことを正当化しようとする思考が無意識的に生じるのだろう。

そこで適切な診断と、画像を見せての客観的な説明で納得させることができれば、信用に変えていくことができると思う。

周りが年配医師なら若いことはむしろ特徴になる、ということが開業して発見したことだ。

⑻ 医師の外見、性別、振る舞い

単純に男前である、というのは正直強い(私のことではない)。

少し離れたエリアに非常に男前の医師のクリニックがあるのだが、ネットの口コミをみると、半分くらいが女性の書き込みで、「イケメンです」が並ぶ。

ある論文で、採用面接では、ハンサム、美人が内定を取りやすいというものがあると聞いたことがある。

やはりこれが一つの武器になるのは否めないだろう。ここに自信がある医師は、その上で愛想よくするだけでかなりのアドバンテージになると思う。

また、女性医師である、というのも大きなアドバンテージにできる。

女性患者や、子供を受診させる母親などは、女性医師を好むことも多いだろう。

これも一つの大きな差別化である。

また、とにかく優しい、というのも武器になる。

特に周りの医師が年配の強気なスタイルなら、それだけで差別化だ。

例えば、患者がセカンドオピニオンを申し出てきても、喜んでむしろ紹介状を書くようなスタイルを貫く。

優しい医師は、患者は人にその医師を勧めやすい。

診療技術は確かでも、ちょっと気難しい医師は、人には勧めにくい。

とにかく優しい、というのも特徴にできる。

周りの医院の医師のスタイルをよく調べ、患者がその医師のどの部分に不満を感じているかを知り、そこを埋めていけばよい。

⑼ 他院からの紹介

これは大きな信用になる。

医師からの紹介ほど、患者が信用する要素はないと思う。

近隣の他科の医師と積極的に交流を持ち、喜んで紹介を受け全力で診療する。

そうすることで、その医師の信用度も上がり、また紹介してくれるようになる。

私も開業当初、隣の内科医師より紹介をたくさんしてもらい、非常に助かった。そういった患者は初めからこちらに対する信頼があるため、そのままかかりつけになりやすい。

また、近隣基幹病院からの逆紹介も非常によい。

基幹病院は外来がパンクしていることも多いため、ここと連携することは、お互いにメリットになる。

基幹病院医師とも交流を深めていくことは非常に大事である。

対医師も対患者と同じく、近隣医師がその科を思い浮かべる時に自院を思い出す、という働きかけが非常に重要である。

(10) 予約の取りやすさ、受診のしやすさ

患者が受診したい、と感じた時に、すぐに来院して診察を受けられるような仕組み作りが重要だ。予約を取ろうと思っても枠が少なく先になってしまう、などは開業当初は避けるべきだ。

とにかくすぐ受け入れるシステム作りが大事である。

例えば、当院の近隣内視鏡内科は、食事を抜いてから受診に行くと、その日にすぐ上部内視鏡検査をしてくれる。

とにかく患者の利便性を重視し、速やかに必要な医療を提供できるようにオペレーションを作っていくべきだ。

ここは患者数が増えすぎて来ている競合医院より、開業当初の方が勝ることができる要素だと思う。

(11) 傾聴

これも上述の要素と近いが、開業当初は時間があるため、とにかく患者の話を聴く時間があるだろう。

周辺の患者数が多い医院はやはり一人一人の診察を短くしていくしかない。

ここも大きな差別化の要素になる。

その際、患者を否定することを言わず、とにかくひたすら満足いくように話を聞く。

「あそこは話をよく聞いてくれる」というのは、よく広がる口コミの一つだ。

ただ、この要素は、患者数が増えてくると、一人当たりの時間を保てなくなり、これだけをずっと特徴にしていくことは難しい。

患者数が増えてきたら、違う要素を特徴として持つ必要がある。

まとめ

繰り返すが、開業当初はまずはとにかく1点、その医院を患者が言えるようになる印象付けが大事だと思う。

開業当初は何となく広く患者を受けたくなり、どの領域も他院と特に大差なく診療し、特徴づけられなくなることがある。

しかしそれでは患者が医院を変えるという決め手がないのだ。

上記のような要素を参考にし、、自院が特徴として押せる内容はどのようなものがあるか、また別の要素があるのか、考えてみてるのが、開業成功の一歩だと思う。

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