競合が多い地域での開業戦略(前)

競合が多い地域での開業戦略(前)

先日、認知度を上げることが重要であると述べた。

認知度を上げる方法についてはまた触れていきたいと思うが、今回は競合が多い地域で開業するにあたり、知っておくべきことを述べてみたい。

今回こういったテーマを挙げた理由は、我々医師は一般的なマーケット感覚というものを多くの場合開業するまで全く学んでおらず、ただ良い診療さえしていれば開業は成功する、と考えている人もまだまだ多いと感じるからだ。

医師にとって、誠実に診療し、常に最新の医療知識を吸収し提供する、ということは非常に大切で、私ももちろんこれが基本で、最も重要なことだと思っている。

しかし実際はそういった要素とは全く異なる動機で患者が医院選びをしていることが多い。

そしてそれを知らずに開業し、本当の意味で患者にとっていい医療をしているのに、その存在が知られていない、受診されてもそれが伝わらないということは、患者にとって、日本の医療にとって非常に不幸でもったいないことだと思う。

なので、今回の内容は、適切な医療を提供をしているがそれをどう世間に知らせて良いかわからない、という医院が、何を重視すれば患者が増えるのか、私が実際開業してみて感じていることを伝えていきたいと思う。

そしてこういったことを考えずしては、今後の医院開業の成功は難しい時代になってきていると思っている。

では本題。

今回は、「設定する目標」「具体例」「戦略」という順で考えていきたい。

設定する目標

まずは設定する目標だが、

その診療科のことを考えた時に、まずその医院が頭に浮かぶ」という位置を目指すべきだろう。

すなわち目指すべきは「その地域で1番になる」、ということだ。

そしてそのネームバリューが信用になる、という位置を目指すべきだと思う。


突然だが、例えば、牛丼を食べたい、というときにあなたはどこが頭に浮かぶだろう。

私なら駅前の吉野家だ。

薬局といえばどこか。

私なら最寄りのマツモトキヨシだ。

すなわち医院を開業するなら、そういう「すぐ思い出してもらえる」立ち位置になる、というのが目指すべき位置だ。

もっとも、競合が全く存在しない地域で開業するのがベストで、そういった地域なら努力しなくても1番だ。

しかしこのご時世そういった地域はかなりの田舎以外は存在しなくなってきている。

すなわち、開業しようとすると、必ずどこか競合医院が存在することを想定しておくべきだ。


また一方で逆に、医師の中には根拠のない自信を強く持っている人も多い。

私がここで開業したら、当然一番になるに違いない、と。

そして、私くらいきちんとした診療ができる医師が、イマイチな診療しかしていないクリニックしかないこのエリアで流行らないわけがない、と自信満々で開業する。

しかしその結果、なかなか軌道に乗らず、苦労しているクリニックも最近は多く見聞きする。

実際は地域で一番になるのは中々困難なのだ。

なぜ、地域の一番になるのが難しいのか。

考えてみたいと思う。

具体例(牛丼屋および医院で考える)

消費者側の視点で考えてみるとわかりやすいと私は思っている。

下のような例を挙げてみたい。

なんだそんな話か、という方もあるだろうが、大事なことだと思うので少しお付き合い願いたい。


さて、ある郊外駅前に住むA氏、牛丼を食べたくなったとする。

その時まずは何が頭に浮かぶだろうか。

先ほどの私と同じく、駅前の吉野家、もしくは松屋、などかもしれない。

あるいは今日はやや高級な牛丼が食べたい、と思ったら、昔から親に連れていかれて今でもたまに行く、個人経営の小さなうどん屋が頭に浮かぶかもしれない。


そして、その駅前に、私が牛丼屋「MM亭」を開業したとする。

もちろん肉の質はいいものを仕入れ、内装も小ぎれいにし、そのうえで値段は吉野家などよりほんの少し高いだけだ。

この肉の質でこの値段は明らかにお買い得であり、味付けにも自信がある。

さて、A氏が再び牛丼を食べたくなったとして、頭の中にはどのような変化がおきるのだろうか。

まず、もちろん初めは存在を知らないだろう。

そしてある時道で配られたチラシ、もしくは通りがかりに見て「MM亭」の存在を知るとする。

しかし、そこでA氏は「MM亭」に入ってみたいと思うだろうか。

多くの場合、人は自分が予想できる結果を選びたい、という保守的な傾向がある。

チャレンジして失敗することの損失を避けたいからだ。

人は、リスクを取って利益の可能性を得ることより、選択を失敗して損失することを嫌う。

なので、「MM亭」の存在を知ったとしても、牛丼を食べたくなったら、味がわかっており、満足度が想像できる、上述の吉野家などにまず行く可能性が高いだろう。

医療でいう、「ホメオスタシス」が働く。

現状維持が居心地いいのだ。

すなわち、存在を知るだけでは足を運ぶ可能性は低いのだ。

なので、「MM亭」に足を運んでもらおうと思ったら、その「ホメオスタシス」を超えるなんらかの理由付けが必要になってくる。

それはどういった要素なのか、一旦想像してみておいてほしい。


ここで、医院開業に話を戻す。

同じように、例を挙げる。

「やまだ医院」「鈴木内科」などがある駅前に、「MMクリニック」を開業するとする。

そしてある高血圧患者B氏がいるとする。

B氏は降圧薬を月1回、老舗の「やまだ医院」で処方されているとする。

「MMクリニック」の開業をチラシで知ったとして、受診してみようと思うだろうか。

やはり難しいだろう。

牛丼の選択など、失敗しても特に大きな問題も起きない要素でさえ、人は選択の変更をすぐはしないのである。

医院の選択の変更はそれより難しいのは自明だろう。

医院選択要素として、まずは医師との相性があるだろう。

そして新たな医院を受診してみた結果、今まで飲んだことのない処方をされるのは怖い。

さらに医院を変更した結果満足せず、やはりまた元の「やまだ医院」に戻りたいと思っても、「やまだ医院」院長先生が一度他院を受診したことで不機嫌になったりしたら困る。

やはり医院を変えるというのは相当ハードルが高いことは想像がたやすいだろう。

では、どのように「MM亭」「MMクリニック」に足を運んでもらうのか。

戦略の考え方(ランチェスター戦略)

ここで、以前より時々触れているが、参考になるのは「ランチェスター戦略」だと私は思う。

様々な戦略が知られているが、こと医療に関してはこの「ランチェスター戦略」は非常に有効だと私自身経験上感じている。

有名な戦略なのでご存じの方も多いと思うが、今でも非常に有用な考え方だと思うので、簡単にこの戦略についておさらいしてみる。

ランチェスター戦略には、「弱者の戦略」と「強者の戦略」がある。

ここで必要な戦略は「弱者の戦略」である。

「兵力で劣る弱者は、武器の力と、1対1になる状況に持ち込んで戦う」という戦略である。

すなわち、「領域を狭く設定し、その領域では競合に負けない部分を作り、1点突破する」ということである。

戦略の具体例(牛丼屋)


まず、先の牛丼屋の例で考えてみる。

吉野家、松屋に勝てる領域はなんだろうか。

肉の質だった。

しかしこれをまだ何も知らない消費者にどう知らせるか。

私なら、その肉の質のこだわりを詳しく書いただけのチラシを、まずバラまくかもしれない。

そして1回目はかなり格安にする。

まず興味をもってもらい、足を運ぶ理由を消費者の頭の中に作る必要がある。

そして一旦足を運んでもらい、例えばラーメン一蘭のように、一人一人の仕切りのある机にする。

そしてさらに肉のこだわりをそこで動画や文字で見せる。

そうすることで味の意識が高いことを徹底的に伝える。

またこれは、一人で食べに来る人に気後れさせないという効果もあり、さらに一人で食べて帰るだけなので回転率も上げられる。

そうするとそれによってさらに値段を下げられるだろう。

そうやって、一人で食べに行くには一番居心地がいいし、それなりに安い、という立ち位置を獲得する。(実際の一蘭は値段はむしろ高いが)

(このあたりは、こちらの方のツイートから一蘭のオペレーションを参考にさせていただいた

⚡️Anna@annair135 : twitter モーメント「一蘭の戦略とラーメン業界分析まとめ」)

上記のように、味が良いことをアピールしつつ、「一人で夕食を取るのにためらいを感じない」という要素を突破口として顧客を獲得していく方法などは面白いと思う。

すなわち、この場合の1点は、「一人で入りやすい」である。

(これが牛丼屋で通用するのかは、専門外すぎて私には試せないので、誰かやってみてほしい)

具体例(医院)

さて、また医院に話を移す。

医院の場合、どういう戦略が考えられるだろう。

やはりキーワードは、他院になく、「MMクリニック」にあるものは何か、これを追求することが、上記の「弱者の戦略」につながるだろう。

逆にいうと、すでに開業して数年以上経っている既存医院よりすべてにおいて劣っているのなら、勝機はないと考えてよいだろう。

しかし、我々が思いもよらない要素で患者は「こっちが優っている」と捉えることがあるので、十分患者目線になって熟考していけば、勝る要素を見つけることができる可能性が高い。

そこで、下のようなポイントを上げてみる。

(診療内容で勝る、という要素は今回はあえて除外している。ここは医師として保険診療をする上で最低限の診療内容ができている、という前提で話をしたいからだ。)

⑴ 立地

⑵ 専門とする疾病、治療

⑶ 他院の評判

⑷ 対象患者の年齢層

⑸ 継続した医院の露出

⑹ ネット対策

⑺ 医師の年齢

⑻ 医師の外見、性別、振る舞い

⑼ 他院からの紹介

(10) 予約の取りやすさ、受診のしやすさ

(11) 傾聴

長くなってきたので、それぞれの解説は次回のブログで。

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