医師のMMと申します。開業医/準備医師オンラインサロン「ドクターズチャート」の運営をしています。
借金と聞いて、いいイメージを持つ人はいないだろう。多くの場合、物心ついた時から、借金は良くないものだと教えられることが多い。
それゆえ開業を考える際、できるだけ借金の額を減らして始めたいと思う医師も多いだろう。
しかしそれは、半分正解、半分間違いだと私は思っている。
どういうことか、述べていきたい。
クリニック開業資金〜融資は受けるべき?〜①事業を起こすのに借金することは決して悪ではない
多くの企業は何らかの形で借入を起こして事業をしている。資金があってもだ。
それはなぜか。
色々な理由があるが、一つは自己資金にできるだけ手をつけずキャッシュを残したいということだ。
そしてもう一つは十分貯蓄ができるまで待って事業を起こすと、その事業を始める時期を逸してしまう可能性があることが大きい。チャンスと思った時に速やかに事業を起こすために借金が必要になる。
投資に関してレバレッジを利かす、という言葉を聞いたことがあるだろうが、ある程度の資金を投入することで、大きくリターンを得ることができる。
それが借入の利率以上の利益が上がるのなら投資として成り立つと言う計算だ。
クリニック開業も同じである。
開業資金が貯まるまで開業を待っていると70才になっても開業できないかもしれない。
しかし開業はタイミングが非常に重要であり、いい時期、いい場所などの話は突然やってきて、しばらくするとなくなったりする。
開業は一つの投資であり、速やかにそのタイミングをつかむためには借入を起こすことは必須になるだろう。
クリニック開業資金〜融資は受けるべき?〜②どれくらい融資を受けるべき?
借金はできるだけ少なくしたいという意識から、自己資金をかなり多く投資して、借入を最小限にする人がいる。
これは大きな間違いだと思っている。
ここで問題を出してみる。
Q 貯金(自己資金)1000万、開業にかかる費用(運転資金含まず)が5000万だとする。
銀行は6000万融資できると言っているとする(わかりやすくするために利息については言及しないとする)。
その場合、いくら借りるべきか。
①4000万
②4500万
③5000万
④6000万
A 答えは、、
④6000万 だと私は思う。なぜか。
開業当初は多くの場合赤字から始まる。黒字に変わるまで数年かかることもありうる。黒字に転化するまでは、減りゆく貯金残高を見続ける事になる。
そして資金がショートすると、閉院だ。そうなってから金融機関に追加融資を依頼しても、貸してくれないだろう。
金融機関にとっては、再融資するエビデンスが欲しい訳であるが、患者が来ていないという、そのエビデンスがない状況では金融機関内の稟議はおりないだろう。
クリニックは、認知度さえ上がれば、ある程度年数が経てば患者が増えてくることが多い。一度かかりつけとなった医院を高齢者は変えることが少ないからだ。
立ち上がるのに例えば3年かかっても、一人一人丁寧に診察していれば、患者は増えてくる。
その時期がくる前に資金ショートしてしまうことは、非常にもったいないことだと思う。
立地をしっかりと考えていれば、クリニックの経営不振による閉院の確率がまだ低い事業であることを考えると、十分投資に値すると考えて開業するわけで、とにかく苦しい時期を乗り越えられるように準備しないといけない。
また、経営が軌道に乗る前に、院長の入院など突発的な原因ででしばらく休院となることもないとはいえない。その際にキャッシュが十分あるということは、保険にもなるだろう。
そしてもちろん、途中で軌道に乗り、借入資金に手をつける必要がなくなれば、その時点で繰上げ返済してしまってもよいのである(ただ実際は、繰上げ返済はおすすめしない。理由は後述)
とにかく、借りられるだけ借りる、これが重要だと思っている。
クリニック開業資金〜融資は受けるべき?〜③開業資金はいくらぐらい必要?
さて、上記2と少し相反するように思われるかも知れないが、大事なことをのべる。
初期投資はできる限り抑え、借入金額を下げる、ということだ。
どういうことか。
例えばCTを導入したくなるとする。
初期投資がさらに2000万かかるとする(もっとかも知れないが例として)。
そうすると、上記の例だと開業費用が7000万となる。
そして例えば、8000万借入を起こすというのは、是か否か。
これは否、もしくはかなり慎重に、というところだろう。
上記2で、借りられるだけ借りるべきだとは言ったが、こういう意味ではない。
CT導入で患者増が明らかに望めるなら問題ないだろう。しかし実際はそのクリニックにCTがあるから行こうとなる患者はどれほどいるのだろうか。
CT導入分の投資を回収しようと思うと、毎日5から10人人程度CTを撮影する必要が出てくるだろう。
果たしてそれほどの患者がいるのか。あそこは高い機械を買ったから患者にすぐCTを勧める、という悪評が流れないか。さらにCTを多く撮影すると保険診療上平均単価が上がってしまい、厚生局より呼び出される可能性もある。
どうしてもCTを入れたければ、開業してから軌道に乗ってから導入すれば安全だろう。
他、内装などにお金をかけることも、十分注意しないといけない。高級感を出そうとすると、数百万単位で費用が上がる。
しかしそのこだわりは患者には気づかれない自己満足ではないか。よく考えないといけない。
開業費用はとにかくできるだけ抑える、そしてそれをベースに借りられるだけ借りる、この考え方が必要だと思う。
あともう一点大事なことは、開業を考えた時の年齢で、許容される開業費用は変わる、ということだ。
すなわち若くして開業する医師は、ある程度冒険できるかも知れないが、50代で開業するなら、できるだけ開業費は抑えた方がよいだろう。
私の知る例で、50代医師が2億の借入で立派な医院を作ったが、患者が増えず閉院、勤務医に戻り、連帯保証人である息子医師と共に返済しているという事例がある。
その意味からも、いずれ開業すると決めているのなら、できるだけ早い方がいいと思う。
クリニック開業資金〜融資は受けるべき?〜④融資の返済期間はできるだけ長くする
借金は早く返してしまいたいという価値観が一般的かもしれない。しかし事業という意味では、全く逆の発想を持つべきである。
返済期間が長いと、毎月の返済額は少なくなり、キャッシュが残っていきやすい。キャッシュが残ることで、次の機械購入への投資であったり、従業員へのボーナスの支払いを行うことができる。
残金以上に貯金が十分できたとしても、すぐ繰上げ返済することは勧めない。
医院運営に今後何が起きるかわからないからだ。
とにかくキャッシュを残しておく。返済は後に回せるのなら極力回す、この考え方が重要だと思う。
クリニック開業資金〜融資は受けるべき?〜⑤融資の前に身内を頼る
賛否両論あるかも知れないが、頼れる身内がいる恵まれた医師は、身内からお金を借りることも悪くないと思う。
開業当初の減りゆく預金残高を見ている時に、返すのを遅らせることができる身内のお金があることは、かなり心の拠り所になるだろう。
しかし、全額を親から出資してもらうなどすると、甘えが出て、本気で経営する覚悟がなくなり努力を怠る可能性もあり、その辺りは要注意ではある。
まとめると、
いい立地で、十分勝算のある事業計画が作れたら、
開業費はできるだけ抑える、しかし運転資金も含めて十分に借りられるだけ借りる。
返済はできる限り長くし、繰上げ返済は原則しない。
ということになるだろう。
最悪、医師は自己破産しても翌日からも診療ができる(弁護士などはしばらく免許停止になる)。探せば就職先もあるだろう。
十分準備できれば、ある程度のチャレンジはしやすい職業だと思う。
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記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)
耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ。