医療法人化のメリット・デメリットは?

医療法人化のメリット・デメリットは?

先日twitterにて医療法人について述べたが、案外反響があったため、少しまとめてみたいと思う。

開業してある程度経てば、医療法人化する、という話に直面するだろう。これにはいったいどのような理由があるのか、よくわからない人も多いと思う。

法人化した先生でさえ、「税理士に言われたやったけど、よく理解していない」という人もいる。

そしてネットを調べてみると、会計事務所のページなどにメリット、デメリットなどが書かれている。

しかしそれらの内容が果たして営利目的でなく、医師にとって正解なのか、信じていいのか判断に迷う人も多いだろう。


さて私自身は、法人化して6期目になる。

しかし法人化する前、顧問税理士に勧められてから、2年くらい迷っていた。

情報を集めれば集めるほど悩みが深くなり、後戻りできない怖さを感じたからだ。

しかし現在は法人化して非常によかったと思っている。

ただこれは、考え方や状況によって大きく異なることで、人によっては法人化しない方が得策な場合もあると思う。

そこで法人化のメリット、デメリットを、開業医自身の立場からまとめてみたいと思う。

最後に私の独断と偏見で、医療法人するとよい条件を考えてみたい。

医療法人化のメリット

ではまずメリットである。

①節税:所得税について

やはり最も大きいのは、所得税の節税だろう。

法人化していない開業医は、個人事業主なので、所得税がかかる。

ご存知の通り、現在所得税は最高税率45%である。

これは4000万以上の課税所得に対し適応される。

もちろんこれに住民税、復興税がかかるため、合計57.1%もの税金がかかることになる。

日本は累進課税制度なので、所得すべてに上記がかかるわけではないが、手取りが相当下がることは間違いない。

さて、法人になった場合はどうなるか。

800万以下の部分は15%、それ以上は23.2%の2段階のみだ。

株式会社ではさらにかかる事業税も、医療法人にはかからない。

細かい計算は今回は省くが、例えば利益が5000万円出たとしたら、相当な金額の税額の差が出ることはご理解いただけるだろう。


さて、利益が入った時点では法人にお金が入っただけであり、理事長にはどのようにお金が入るのか。

この法人の利益から、役員報酬として給料を理事長個人に払い出すことになる。

その際、理事として家族を入れることが多いと思うが、上記の累進課税の観点から、所得を分散させた方が節税になる。

すなわち理事長のみに3000万円の報酬を取るより、例えば理事長には1800万、理事である配偶者に1200万の報酬を払い出す方が税金は安くなる。

理事になれる親族が複数いれば、さらに節税となる。

そしてそれぞれの報酬に、給与所得控除が取れる。

(個人でも専従者給与として配偶者に給料を出すことができるが、理事報酬ほどは高額なものは出せないことが多い。配偶者が医師、看護師などであれば高く出せると思うが、他で勤めているなら出せない。そして1人しか専従者になれない)。

その後役員報酬を引いた利益に法人税がかかることになる。

ある程度以上の利益があるとトータルの税額は安くなることが多いだろう。

上記のように法人化によるメリットの一つは、税額をある程度調整できることだ。

生活費を多く取りたければある程度税額が上がることを許容して役員報酬を上げる。

普段の生活費があまりいらない場合は役員報酬をあまり取らずに法人に内部留保として残すと、税額は安く抑えられる。

(内部留保を残す金額については、残しすぎも良くなく考える余地がある部分であるが、これに関しては今回は触れない。)

税金面で有利であることはお分かりになるだろう。

②節税:退職金が取れる

最近小規模企業共済についてツイートした(興味がある方はこちらを)。

これは個人事業主が退職金を手に入れる方法なのであるが、原則的には退職金は法人から退職する時にしか受け取ることができない。

そして、すべての税金の中で退職金が最も優遇されている。

すなわち、ある一定期間以上法人に勤め、仕事を辞める際は安い税金で退職金を自分に出す、ということが可能になる。

もちろん金額は一定の相場はあり、それを逸脱すると否認される可能性はある。

いずれにせよ、所得税として取られてしまうと当然手元からお金はなくなり返ってこないが、法人化によって節税できると、自由に使えないお金とはいえ法人内にはまだお金があるわけで、今後のため、何らかの使い道を残すことができるのである。

③分院、医療施設設立などの展開ができる

今後分院展開、老健施設建設などを考えているのなら、法人化しておくべきだ。

個人事業のままこういった展開をするのは不可能ではないが非常に難しい。

④相続対策

上記の新旧医療法人の話に繋がるが、新医療法人なら、法人を継ぐ子供がいれば、強力な相続対策になる。

法人の内部留保は相続税の対象にならないからだ。

⑤地域での信用

順序が逆になったがそもそも法人化するということは、地域医療に対し覚悟を決めて長く貢献する、ということを意味する。

その対価としての節税メリットだとも言える。

なのでそういう意味で、法人であるということは地域の人たちにとって、この先生はこの地域でながく頑張るつもりなのだな、という覚悟を見せることにもなる。

また、銀行への信用も上がることもあり、融資が受けやすくなることもある。


他にも、経費が通りやすくなる、赤字が10年繰り越せる、などメリットはいくつかあるが、今回は大事なものを挙げた。

医療法人化のデメリット

当然デメリットも多くある。以下に挙げてみる。

①解散時に残余財産が国に帰属する

上記で触れたが、新医療法人の場合、解散時の財産は国の物となる。

しかし解散前に整理しておけば、ここは問題となることはないと私は考えている。

しかし理事長の急死の場合のみ、残った家族がその後処理に翻弄される可能性はある。

②接待交際費が減る

年間800万以上の接待交際費は損金(個人でいう経費)にできない。

さらに1億円以上出資金内部留保(8/25修正)がある法人は、50%しか損金にできない。

私の知り合いの先生で、毎年1000万以上接待交際費を使う豪傑がいるが、その先生は接待交際費を使えなくなることが困るので、法人化は考えていないと。

それも考え方である。

③社会保険料など、必要経費が上がる。

役員、職員共にこれに加入する義務が生じ、経費が上がる。

もともと医師国保に加入している場合、特例でそのまま医師国保、厚生年金というセットも可能である。役員報酬を高く取っている場合、その方が出費を減らせる可能性がある。)

また、税理士の月額報酬や決算の費用なども上がることになる。

④財務内容が公開される。

株式会社などと同じく、財務内容が公開される。

法務局に行けば、売上、経費など簡単な決算内容と、理事長の住所が確認できてしまう。

⑤原則後戻りはできない

一旦法人化したら、基本的には個人事業に戻ることはできない。

すなわち利益が上がっているときはいいが、晩年に患者数が減ってきたとき、上記の経費上昇が経営を圧迫することはある。

実際法人化してから業績が悪くなり、かえって首が回らなくなるケースは散見される。

個人事業なら廃業するだけで済む。

⑥生命保険を使った節税ができなくなった

以前は生命保険の掛け金を損金にして、退職時に解約し退職金の原資とする方法や、逓増定期保険に加入し個人で買い取ることで節税メリットを受ける方法などがあったが、現在は認められない。 以前は掛け金を一部損金に出来たが今はできない。(調書が税務署にいくが、このスキーム自体は禁止はされていない)(8/25修正)

こういった方法が使えなくなったことは、大きなデメリットといえるだろう。

医療法人化するとよい条件

ここからは私の独断と偏見だが、以下のような場合、法人化はメリットがあると考えている。

①売上8000万以上(できれば1億以上)、利益4000万以上あり、それをしばらく継続させられる見込みがある

上記のように節税額が経費増を上回らないと法人化の意味はないと言える。

ざっくりとした私の感覚だが、これくらいの利益が出ていないと法人化のメリットはないと思う。

もちろんこれ以下の利益でも単年で見れば節税になるだろうが、利益が下がる可能性を考えると、慎重に行きたい所である。

②まだまだ長く続けるつもり(10年以上?)

法人設立の意味は継続なので、国や自治体としては、一度設立した法人は永続的に運営してもらいたいと思っている。

しかし10年、20年以上先のことなど誰もわからない。

継いでくれると思った息子が嫌がるかもしれないし、突然死するかもしれない。

なので先を考えすぎていると踏み込めないのであるが、上記のように、1年単位での節税メリットは大きいため、長くなればさらに大きな差となる。

なので、今後10年以上は開業医としてやっていくつもりなら、法人化は選択肢となると思う。

③分院展開

これを目標にしているのなら、必須と言えるだろう。

④継承する医師の子供がいる

この場合も、相続のことを考えるとメリットは相当大きい。

継承するとわかった時点で、役員報酬を多く取らず法人に内部留保として置いておくと、そのお金には相続税がかからない。

非常に強力な相続対策になりうる。

しかし兄弟がいたりする場合は、うまく割り振らないと相続争いが勃発することはよくある話である。

⑤高給を取れる専従者がいないが、所得分散できる親族がいる

配偶者が医師や看護師などの場合は、専従者給与を一般的にその資格者に払う程度の給料を払い出すことができるが、無資格であれば、それ相応までしか払い出すことができない。

しかし法人理事としてなら、それ以上の十分な報酬を出すことが可能となる。

さらに例えば成人している息子がいれば、理事として報酬を出すことによってさらに所得分散および相続税対策にもなる。


以上、法人化について、私が理解している内容の中で重要と思うものをまとめてみた。

いつか法人化するのであれば当然早い方がいい。

しかし迷いが強いのなら、以前よりメリットは少なくなっていると考えられるので、急ぐ必要はないと私は考えている。

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

記事の執筆者 MM (医学博士、耳鼻咽喉科専門医、医療法人理事長)

耳鼻咽喉科クリニックの理事長として日々の診療、理事長業務を行うかたわら、開業医・開業準備医師限定のオンラインサロン「ドクターズチャート」をよいこはこいよと2019年に設立。
現在オンラインサロンは会員数1100名超(2022年2月現在。)
Twitterフォロワー数13,700人、音声配信メディアVoicyパーソナリティ

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